ふたりのはなし。 | ナノ




「真琴さぁ、太ったぁ?」

莉奈が笑顔でそう放つ。


「太っ……た?」

ぷにぷに、と効果音を口にしながら莉奈は私の二の腕を袖越しに触る。


「聞いて〜そういえば昨日」
「太っ……痩せなきゃ……えーちゃんに嫌われる……」
「大河さんが……やだぁ真琴聞いてなーい」

痩せよう。
ダイエットしよう。









「真琴、ご飯それで足りるの?」

極端だというくらい食事を減らす。

お米ちょびっと。
メインのお肉もちょびっと。

野菜をいっぱい。



「うん、おなか空いてないの」


不思議そうなえーちゃんに笑顔で対応してご飯を食べる。
うぅぅ、お腹いっぱいにならない。

いやしかしだ。食べ過ぎておデブちゃんになってえーちゃんに嫌われたりしたら世界の終わりだ、壊滅だ。



ごはんを食べ終わって一緒にごちそうさまをした。

えーちゃんが急に思い出したように立ち上がる。
しばらくして戻ってきて、手に持っていたのは明らかにお菓子アピールをしている箱。



「そうそう、喜田さんがこの前のお礼にってケーキくれたから食べよ?」 



にこにことえーちゃんが笑う。

うぅ、その笑顔が悪魔のようだ。
ダイエット始めようとした途端にケーキだなんて……!
くれたのは喜田さんだけれども。



「美味しいケーキ屋さんのだから、真琴も気に入ると思う」


えーちゃんが好きなケーキ屋なのだろうか。
嬉しそうに、真琴にも気に入ってほしいと言わんばかりに笑う。

ケーキは好きですよ、好きですけども。
友達に「太った?」と言われた手前、何だか食も進まない。



そんな私の気持ちもつゆ知らず、えーちゃんは箱を開けて嬉しそうに「真琴はどっちがいい?」なんて目の前で告げていた。


箱の中にあるのはおしゃれなショートケーキとチョコレートケーキ。

食べるのがもったいないと思えるほど可愛らしい装飾が施されているそれは食べてほしいと言わんばかりに私の目の前に立ちはだかる。



「いいよ、えーちゃん選んで!」

「じゃあ真琴がチョコ。ここのチョコケーキなまら美味い」



天使のような微笑みで悪魔の所業……!

目の前に差し出されたチョコレートケーキに唾を飲み込む。


「食べないの?」



えーちゃんはフォークを2人分持ってきてショートケーキをつつきはじめた。


「お腹空いてなくて、」
「いつも真琴デザートは別腹って食ってるべ?」


おい今までの私ふざけんなちくしょう!!

えーちゃんは思いついたように小さく崩したショートケーキを自分の持っていたフォークに刺して私の口の前まで持ってきた。


「はい、あーん」


へにょへにょ、にこにこ。
見てるだけで幸せな笑顔を向けられる。


ダイエットかえーちゃんからの「はい、あーん(はぁと)」どっちを取るかの天秤なんて速攻後者に傾くにきまってる。どぉんとすぐに圧勝してしまう。勝てない。強い。


ぱくりと口で頬張る。
えーちゃんは満足そうに自分の残りのケーキを食べた。
私のチョコケーキも少し盗んでいった。


超美味しい。美味しいけど。



「……えーちゃん。えーちゃんは、私が超おデブになってぼよぼよになっても愛してくれるって信じてる」

「は?何言ってんの?」

「私信じてるから!!」

「真琴何言ってんの?」


首を傾けるえーちゃん。



友達に太ったと言われたことを伝えると、そうかぁ?と心底不思議そうに笑う。


「変わんねーべ」

「変わるんですぅ女の子は僅かな変化にシビアなんですぅ!」



立ち上がったえーちゃんにひょ、と抱っこされて。


「うん、変わらない変わらない。いっつも真琴を抱っこしてる俺が言ってるから間違いないです」


そんな風に、言われて。

それだけでもなんか嬉しいのに。



「俺は幸せそうにいっぱいいっぱい食べてる真琴が大好きだよ」



愛おしそうな表情でそんなこと言われたらもう、体重とかどうでもいいかなぁとか思っちゃうのです。





─いっぱいたべるきみがすき!─
(デザートはやっぱり別腹だよね。)






「俺と一緒にいっぱい美味しいもの食べよ」
「喜んで!」





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