ふたりのはなし。 | ナノ




使い慣れたヘッドセットを付けて音量を確認する。



マイクの設定を開きながら声を通してしっかり動作しているか確認した。


開始、と書かれたボタンを押す。




「あー、あー。聞こえますかー?」 





黒かった画面に「おk」「聞こえる」「お」と言った白い文字の単語が流れる。



これは有名動画サイトの生放送機能。


リスナーさんにリアルタイムで声を届けることができ、コメントをいただけばやりとりも可能である。




私は動画サイトに「実況動画」を投稿していて、そこそこ有名、である。





「はーい、大丈夫ですね!みなさん、お久しぶりです!初めましての方は初めまして〜」


パソコンに向かって独り言のように話す。



音声としては返ってこないが、コメントで「ひさしぶり!」といった言葉が返ってきた。




「えーと、長らくお待たせしました!大学受験が無事終わりました〜!なんと、大学合格!」




多くの「おおおおお」「88888」コメントが流れてきた。

うれしいなぁ。

あ、88で拍手の「ぱちぱち」を表しています。
最初わからなくて戸惑ったなぁ。




そんな中、ということは?というコメントに目が止まる。



そうそう、そうなのよ。




「今日は皆さんにお知らせがありまーす!
なんと!私『まーちゃむ』が都会進出決定〜!」


まーちゃむ、は私の所謂HN。
本名は高橋真琴、だからまーちゃむ。



驚くようなコメントにふっふっふと笑って見せる。



「そしてそして!私旦那様と同棲しちゃいますー!むふふー!2年という長い時を越えて結ばれる……」



私の気持ち悪い発言と笑いに返ってきたのは驚いた言葉、ではなく……

「出たwww」
「安定のww旦那狂www」
「妄想乙でーす」

そんな言葉ばかりだった。



「妄想じゃありませんー!」




私の旦那様(但し未婚)は2年前に東京に就職といって地元から去った。



落ち着いたら迎えに行く、なんて言われたけど。

待てないし私から行っちゃえばいいじゃん?レッツゴー!ってなわけで東京進学!
見事に合格!

愛の力って素晴らしい。




大学に合格したことを伝えたら

「じゃあうちに来い」

って言ってくれたのです!




私が彼氏狂なのは
生放送、投稿動画、Twitter
それらを見れば周知の事実。


よく「旦那狂」「旦那厨」と言われる。



「そういうわけで、公式生放送とか、イベントとか!お誘いがあれば都合が合えば参加したいなって思います〜」


コメントで流れる「まーちゃむが生で見れるとは」。

まぁ、可愛くないし生で見ても残念だけどね。



Twitterでも顔写真晒してないし、生放送もカメラなしだからリスナーさんは確実に私の顔を知らない。



「可愛いんだろwktk」
「期待するなよ、おっちゃんやで……」


そのコメントはフリかな?と声を一気に変えて──……




「誰がおっちゃんだゴルァ!」



明らかに女の声じゃない低い声を出した。

たくさんの「wwwww」が流れる。



このおっちゃんボイス、結構人気らしい。



寧ろこっちが地声のホモの乙女なおっちゃんなのでは?疑惑が流れたほどだ。

やめろ、私は若い女子大学生だ。



他にもロリ、ショタと我ながら声域は広い。

うん、これが人気でた一つの理由だろうな。



あ、もう放送時間ない。

延長するのもなぁ、引っ越しの準備しなきゃだし。



「受験で長くお待たせしてごめんなさい!待っててくれてありがとうございます!
引っ越して、落ち着いたらまた生放送します、動画も投稿再開しますね!そうだな、春頃!
ではみなさん、おやすみなさい!」



私の言葉に

「おつ」
「おやすみ!」
「投稿待ってるー」

とコメントが流れる。



あぁ、受験で自粛してたから、懐かしいな。



生放送終了のボタンを押す。





まだ投稿を楽しみにしてくれている人がいる。

長い期間待っててくれた人たちがいる。



幸せだなぁ。




Twitterに「生放送来てくれた方ありがとうございました!」と呟いてスマホをベッドに放り投げた。



「よし、引っ越しの準備!」



明るい未来が待ってるぜ!なんて片付けを始めた。





─待っているのは新生活─
(全然違う環境が楽しみだ)




「あれ?ゲームどこにしまったっけ……」





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