ふたりのはなし。 | ナノ




悲鳴。

銃声。

残酷な、音。



それらが響く。





息は切れて、持っている銃の弾もほとんどない。


敵の走る先に、確か、彼がいた気がする。


あぁ、やっぱり。
相手を追いかけると、銃で狙われたその人の姿。

遅い。
私は、間に合わない。
彼を救えない。


「晃くんっ……!」





最後の銃声が響いた。





「うおー!!」
「ぎゃー!」

「うるっせぇな!」



すたーん!と、響いたのは先ほどと打って変わって平和な横スライドドアが開いた音。



「あ゛ー!」
「い゛ー!」

「しつけぇ!」



大きなテレビ画面に表示された「LOSE」が悲しく崩れた。



戦争ゲームをオンラインでやっていて、負けた。

遊びに来た晃くんとチーム組んで2vs2でやって、負けた。




仕事が休みで先ほどまで寝ていたえーちゃんは不機嫌顔だ。

私たちの悲鳴で起きたらしい。




「晃何でいんのよ」

「お邪魔してまーす。日曜だしぃ文香は友達と出かけてるしぃ真琴とゲームしようって。お前昼まで寝てんの、だらしねぇなぁ!」

「お前と違って仕事だったから昨日寝たのおせぇんだよ!」

「何時」

「4時ちょい」



えーちゃんそんなに起きてたの?

昨日帰ってきはしたけど、持ち帰ってきた仕事するからって、部屋入れてくれなかったのはそれのせいなのね。



「昨日じゃねぇじゃん今日じゃん!」



まだまだ眠いのか、不機嫌そうにえーちゃんは頭を掻いて晃くんの言葉を無視した。


どかりとソファの上に崩れ落ちて、クッションを枕代わりに横になる。




「大体真琴!おめぇが早く言ってりゃ倒せただろーが!」

「責任転嫁ぁ!?確かにそうだけど、周りみない晃くんが悪いじゃん!私悪くないでーすが!?」

「あーやんのかてめぇ!」
「やりますかコラァ!」


「……ゲーム如きで喧嘩するなよ」


クッションに顔を埋めてぼそぼそとえーちゃんが呟く。



「如きじゃねぇよ!戦いなんだよ!命がけだわ!」
「そうだよー!えーちゃんわかってない!駄目だね!ダメダメだよ!」
「瑛太、おめぇは何事もゆるゆるっと流すからそうやってボケるんだよ、わかるか?」

「何ですかやりますかコラ」



晃くんの言葉に反応したのか、低い声でそうハッキリと言った。

クッションに埋めたままなので少し声がこもっている。



転がっていたコントローラーをえーちゃんは拾って私達をビシリと指さした。


晃くんは対抗するように謎ポーズをとる。
私も鷹のポーズをとっておいた。



「俺が勝ったらお前等騒いだ謝罪に土下座してさらに甘いお菓子大量に買ってこい」


子供か。



えーちゃんは不機嫌なときは二重人格かってくらい性格が悪い、というかサドっぽい。
そして我を通すので時々理不尽。

不機嫌な理由は主に寝不足。



学生時代も授業で居眠りをして、叩き起こした先生に反抗した、らしい。



「俺らが勝ったらアイスをおごりやがれ、もちろん一番高いやつな」


だから、子供か。




こうして、戦いは始まったのであった──……











「俺叩き起こされて呼び出された意味がわからないんだけど」

「察して」
「旅は道連れ世は情け、だろ」



お兄ちゃんがコントローラーを手に持ちつつ嫌そうな顔をした。


いやこれ4人対戦じゃん?
1人足りないじゃん?
コンピューターなんて戦力にならないし!

てなわけでお兄ちゃん召還。


卑怯と言われても構わない。
勝つのさ、えーちゃんに。

3vs1で。




「万が一負けたら一緒に土下座しようぜ!」

晃くんが舌を出しながらテヘペロと言うようにおちゃめにさらりと最低なことを言う。

「土下座!?」


「はいスタート!」


お兄ちゃんに言葉を言わせないように勝手に試合を始める。



私、晃くん、お兄ちゃんvsえーちゃん
の戦争ゲーム。

復活なしルールで、全滅した方が負け。


分割画面だから誰がどこにいるか見ればバレるよね。


えーちゃん草に隠れててどこか不明だけど。




「囲んで撃てば勝てんだろ!さがせ!見つけたら呼べ!」

「晃隊長!大河二等兵が音もなくやられたであります!」

「あぁ!?役立たずか!」


お兄ちゃんの画面にはLOSEの文字が現れている。



「瑛太おめぇアサシン使ってんだろ!ずりぃなおい!」


アサシンってなんだっけ、暗殺者か!
移動速度が早くて、攻撃速度も早い。
防御力弱いしスタートは銃なしのナイフだけだから私は好きじゃないけど。


まぁつまり、近付けないで銃で倒せば余裕。


……のはずなんだけど。




ようやく見つけたらいきなり大爆発が起きた。

爆弾仕掛けられてた。

そしてとどめの。
ロケットランチャー。



「何で持ってんだよ!」

「大河の形見武器パクった」


これは酷い。
えーちゃん無双だ。



「納得いかないからもっかい!」

まぁお兄ちゃん即LOSEだしね。
音もなく後ろからナイフキルされてたからね。




何度やってもえーちゃんには敵わない。

何戦目かわからないときに、突然えーちゃんの操作していたキャラの動きがピタリ止まった。



「よっしゃ初勝利!」



喜ぶ晃くん、から隣のえーちゃんに視線を移すと、ぽてりとえーちゃんは私に寄りかかってきた。

……寝ている。寝落ちしたこの人。


それに気付いた晃くんは溜め息をはいた。




「これ勝ったって言えねぇじゃん」





─温厚な人ほど怒ると怖い─
(そしてえーちゃんの圧勝)





「俺らの負けか、約束通り菓子だな。よし、大河買ってこい」
「何で俺なんだよ!」
「一番戦績に貢献してないからであります!」
「そもそも俺関係ないしな!?」





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