手を繋ぐラスト

 世界の終わりがくるのはあっという間で。
 真っ暗な夜の空には白い光がいつも以上に大きさを主張して私の視界に映っていた。


「すごく、綺麗だ」
「フィルムに収めておきたいくらい」
「写真を撮ったところで意味がないでしょ、俺たちもう死ぬんだから」
「それもそうだね」

 どんな超常現象か。
 なんて異常気象か。

 幾億もの星ぼしが私たちの住む地球に隕石となって降り注いでくるのだ。
 星の到着予定は明日らしい。もうすぐ明日になるわけだけれど。

 その報道がされてから数日。
 慌てふためく者。
 諦めて自ら命を絶つ者。
 泣き叫ぶ者。
 神に祈る者。
 狂って笑い叫んでいる者。
 様々な人を見てきた。


 私は最後の日に呑気に思われるかもしれないが浜辺で寝転がっている。
 彼と一緒に。


「あれとかもう近いね、燃えてんのわかる」
「隕石って小さいのでどの位の破壊力あんの?」
「たぶん、こーんくらい」

 彼はいたって真面目な顔で、手を広げて表現してみせた。
 大きく大きく広げてみせて、かなりやばいよと、真剣な顔で告げていた。

「あまりやばさが伝わらないね」
「まじやばい」
「まじやばいのか、やばいね」

 くだらない言葉のやり取りができることすら幸せだったなぁ、なんて。今更。

「最後にさぁ、散歩しよ」

 彼は立ち上がって私の手を引く。
 砂に足跡を残していく。すぐに消え去るであろう、私たちのいた証。

「酷い話だよね、いきなり地球滅亡ですとか」
「そーお? 俺は星が好きだから星が原因で死ぬのも、悪くないなぁ」

 からりと彼は笑った。
 さくり、さくり。

 足跡もいくらか伸びたであろう時に、彼は私に視線を向けた。

 星はもうすぐそこまできているみたいだ。やけに眩しい気がする。


「俺ね、幸せだったと、思うよ」

 彼のお得意の人懐こい笑顔を浮かべて、私の手をぎゅうと両手で包み込んだ。

「死ぬ時までお前といられてさ、手を繋いで最期を迎えられるんだから」

 悔やむのはお前にプロポーズしようとしてたのにできなかったことかなぁ。と彼は苦笑した。

 手を力強く握り返して、私もだよ、と最期に伝えたのは彼に伝わっていたのだろうか。




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