two

 開始してから大分時間が経った。時計がないから正確にはわからないけれど、30分は経過しているだろう。


「……そうだな。まずは、教室に戻ってみるか」


 あの殺し合いが、もう収まってるだろうと踏んでの行動か。
 朽木が教室に向かって歩き出す。私はそれについていくしかできなかった。


 当たり前のように昇っていた階段が辛く感じる。
 教室に行きたくなくて、足が重くなってきている気分になる。


「――…1番怪しいのは、浜田だ」


 突然朽木がそうこぼした。階段を昇り、上を向いたまま私に向けた言葉。

「……浜田?」


 そうか。彼は1番最初に行動した。だから、まず疑う人物なんだ。


 階段を昇り終えて教室までの廊下を歩き始めた。
 嫌になるほど静かだ。嫌だな、何で教室に行くんだろうか。

 朽木は教室に躊躇いなく入っていった。恐る恐る、顔を覗かせる。


 あり得ないほどの人数が、倒れている。生きている人はいない。
 教卓を漁りながら、朽木は口を開いた。


「大半死んでんな、これは」


 半分以上……ほとんどと言っていいほどの人数が重なって息をしていなかった。まさに死体の山だ。

 誰がこんなに……みんなが、か。
 誰か1人の仕業ではないんだろう。


「……あぁ、あった」
「何が」
「クラス名簿」


 ひらり、と手で揺れる名簿。
 もう片方の手にはマーカーが握られていた。

 それを押し付けるように渡された。


「……え?」


 朽木は死体の山を指さした。


「俺、そこで誰死んだか調べるから。名前言った奴消してって」


 ……調べる?
 調べるって、触るわけ?

 気にした様子もなく、山に近付いていった。


 何か手袋をつけるわけでなく、素手で触っていく。
 ……感染症とか、気にしないのかあいつ。
 いやでも、今は生きた状態じゃないわけだから……気にしなくてもいいのかな。

 それにしても気持ち悪くないの。元クラスメートといえど……元クラスメートだからこそ、触れない。

 それこそ吐いてしまうかもしれない。
 朽木は躊躇いなく触り、次々と苗字を読み上げていく。私は仕方なくマーカーで名前の人間を塗りつぶしていった。


 いつも話していた
 あの子も
 その子も

 もうここには存在していない。
 くらくらと眩暈がしてくる。



「こいつは、佐伯……これで全員か」



 ふぅ、と立ち上がるそいつが怖く思えてくる。1度も取り乱していない。こんな状況でも、いつも通りの表情。

 その方がこの状況ではいいのかもしれない。
 混乱して、この死体の山の一部になるよりは全然いい。

 だけど、やっぱり


「おかしいよ、あんたの頭。こんなに友達が、死んでるのに」


 朽木はおかしい。こいつは、狂っている。


「……あんたも充分、おかしいと思うけどな。そんなことより名簿」


 朽木を睨み付けながらそれを渡した。
 ほとんどの人間の名前が黒く塗りつぶされたその名簿。名簿は朽木の手に渡ったことで、乾きかけの赤黒い血で染まった。


「……やっぱり、浜田生きてんな」


 別の所で死んでる可能性も無きにしも非ずだけどね。
 残っているのはたった5人。


 私、東条茜。
 そこにいる朽木翔。
 最初に行動を起こした浜田陸。
 死神に向かって叫んだ国木田悠真。
 そして、私の友達の古本南。

 ……南が無事だったことにほっとする。


 この中の誰かが、王様なんだ。
 私と……信用ならないが朽木は王様ではない。

 ということは、残り3人。


 そうだ、時間。


 視線を上に向けた。
 時計は15時ぐらいを指している。


「これだけ少なけりゃ怪しい奴から行くか」


 怪しいやつ……浜田か。
 朽木は教室から足を踏み出す。私もそれに続こうと歩く。

 だけど、朽木は教室を出たところで足を止めた。
 ……どうしたんだろう。
 横からひょっこりと顔を出すとそこには人が立っていた。


「国木田!」


 こいつも教室に戻ってきたのか、私たちを見て驚いた顔をしている。教室を出て、廊下で再び国木田を見た。


「……教室どうなってんの?」
「自分で見たらどうだ」



 朽木の赤い手を見て嫌そうな顔をした国木田は、私たちを警戒しながら教室に近付いていった。

 瞬間、中を見て、吐いた。
 状況に耐えられなかったのか、苦しそうにかがんで胃の中の物……胃液を吐き出していた。
 ……いっそのこと吐いた方が楽になれるのかな。


「……何なんだよ」


 もう嫌だ、と上擦った声で国木田が呟いた。


「全員で脱出するのは不可能だって……言うのかよ」


 下を向いたまま国木田が立ち上がった。



「国木田、落ち着けよ」



「落ち着けるわけねぇだろ! 何なんだよ! 何でそんなに冷静なんだよ朽木も……東条も! お前ら、王様なのか!? 意味、わかんねぇんだよ!」


 がん! と耳に痛い音がたつ。
 朽木が廊下の窓を、刀が鞘に入った状態で殴った。



「こういう類は冷静な奴が勝つ。現実を見ろよ、出ることなんてできない、逃げることなんてできない。わかってんだろ、わかんないんじゃない、わかりたくないんだあんたは」



 国木田は黙る。
 何か言いたげに、口に強く力を入れたまま顔を上げない。朽木は溜め息を吐いて、国木田を蹴り倒した。

 朽木は動揺した様子を見せる国木田が逃げられないように、シャツを思い切り踏みつけて、鞘を振り捨てる。


「……な、んだよ」


 刀を国木田に向けて、冷めた視線を送っていた。止めなきゃ。……止めるの?
 だって、私はこれに「協力する」と言ったんだ。

 幸い残り3人だったけど……もっと多い人数にこれをするつもりだったんでしょ。なのに、その場面にあったら止めるの?私は……逃げるの?



「……やめ、ようよ」


 朽木はどうしてというかのように無言でこちらを見てきた。



「友達が死ぬのは、もう見たくない……国木田は王様じゃないよ! ほら、さっき浜田が怪しいって言ってたじゃん! 浜田には悪いけど、きっと……」
「あんたは友達が死んでるのが怖いんじゃない、自分が死ぬのが怖いんだろ」



 その言葉に言葉を止める。


「あんたもだよ、国木田」


 そうなのか?
 私は……自分が怖いだけなの?



「浅い友情なんてすぐ崩れる。自分が死にそうになったら殺そうとしているそいつが友達でも、殺すだろ」


 そんな……そんなわけない。私は友達が大切だ。
 殺すなんてしない。絶対しない!!


「私は悪くない……私の生き方が正しいはずなの!!」


 友情が浅い?
 わからないわからないわからない。

 何が正しい?
 私は、間違ってない。間違ってるはずがない。


「悪いとは言ってない、そう縋ってなきゃあんたは生きられないんだから。国木田、お前は自分を守るための物も持たずに逃げ回ってることが正しいのか?」


 ……確かに、国木田は何も持っていない。
 丸腰、というやつだ。


「……そうだ、逃げたな。あんたは逃げた。1番最初に教室を出たのは国木田、あんただよ」


 友達を大切にしたいくせに、逃げたのかと。そう言っているのだろうか。
 刀を向けたまま、動きが止まっている。

 それを振り上げて、国木田を斬ろうとしていた。その朽木の後ろに、人影が見えた。


 誰か、いる。


「朽っ……!」


 気付いたのが遅かった。誰かが乱暴に振るったバットが、朽木の頭を殴ったのだ。
 目の前のそいつはバランスを崩して、倒れる。

 赤い血をつけた、金属バット。


 それを持っているのは
 浜田陸。



 相変わらず怯えたような表情で、それを振るったのか。

 朽木はまだ、死んではいなかった。痛そうに頭を押さえて、倒れこんでいた。


 ――逃げよう。
 国木田に手を伸ばして立ち上がらせる。

 咳をしながら、立ち上がった。



 朽木は?
 ……もういいか、こんなやつ。

 そんな思いがよぎった。



 走り出そうとした刹那。

 銃声が響いた。


 手をつないでいた国木田の頭から、血が飛ぶ。
 寧ろ、頭が飛んだと言ってしまえる。



 吐きそう。
 何で。
 こんなに近くで人が死んだ。
 真横の人間が死んだ。


 国木田の体が崩れる。
 同時に聞こえてきた笑い声。


「あははははは!! ねぇ、あと何人殺せばいいのかなぁ!? ねぇ!?」


 浜田とは反対方向から現れた、南。
 普段の穏やかな少女からは想像もつかないほど、狂っていた。



 この状況が、彼女をそうさせたんだ。







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