わーるどえんど


あと3日で魔王の手によって世界は滅ぶ。

村ではモブのような人々がそう口々に噂していた。



どうやら俺は、あと3日で世界を滅ぼさなければならないらしかった。



「……つまらないなぁ」



弱々しい自称“勇者様”達の相手は飽きて。
誰もいない部屋で1人ぽつりとぼやいた。

そもそも、ここまでたどり着く勇者様が少なすぎるではないか。



暇だ、暇。

構ってくれる相手もいない。



俺は好きで持ってるわけでもないご立派な角を隠す為にフードを被り、闇みたいに真っ暗な部屋を出る。

スライムとかの雑魚モンスターを一瞥しながら出口の扉へと向かっていく。
なんだこいつら、勝手に住み着きやがって寄生虫か。
城を守るために生まれたんだろうけどさ。



その日は晴れだった。

ぺかぺかに眩しい太陽に目を細めた。


しばらく城から離れるように歩いて、花畑で腰を下ろした。


色とりどりの花は見ていて癒される。

悪役の台詞じゃないって?いいんです、俺はなりたくて悪役になったんじゃないんです。

こんな悪魔みたいな角も
皆に溶け込めない忌み嫌われるような赤の瞳も

いらないんです。
いらなかったんです。
俺は普通がよかったんです。



伏せ目がちに花畑を眺める。
子供がその場から動かまいとするかのように丸く座り込んでいた。



「大丈夫ですか?」



聞き慣れない声に顔を上げると、そこにいたのは見慣れない少女。



「どこか痛いんですか?」

「……心が、」

痛いです。なんつって。



少女は俺の言葉に驚いたような表情を浮かべる。焦っているようにも見える。


「たっ大変!心臓が痛いなんて!今すぐ村のお医者様に見てもらわないと!!」



少女に手を引かれそうになり、抵抗してとどまろうとす……なんだこの女力強いな!?


慌てて大丈夫だと必死に訴えて村へ行かないことを示唆する。

村なんて行ってやるものか。
絶対に拒絶されるじゃないか。


少女は渋々俺の手を離す。

そいつは俺の顔をふと見て、笑う。


「目が赤いなんて珍しいですね」


ああ、油断していた。
見られるなんて。

気持ち悪がられる。
嫌悪されてしまう。


少女は視線を下に下げて、そちらへと手を伸ばした。


彼女が摘んだのは、一輪の赤い花。



「お花みたいで、綺麗です」


にっこりと、優しく。
今まで向けられたこともない優しい笑顔が向けられる。彼女は俺に向かってそんな綺麗な笑顔を向けてくれた。


綺麗なんて言われたことはこれっぽっちも生涯1回もなかった。
気持ち悪いと言われることしかなかった。


だから、

「ありがとう、ございます」

単調な、お礼くらいしか口からは出てきてくれなくて。とんだお笑い草だ。


少女はにこりとはにかんで俺に赤い花を渡した。



「勇者様」



誰かの言葉に、彼女は振り向いた。

仲間らしいその人に近付いてまたこちらに振り向いて手を振った。


「さようなら」


俺は手を小さく上げて、口を釣り上げて笑う。



「……またね」

彼女に聞こえないくらいの声量で言ったのは、怯えからなのだろうか。


このまま、来れば。

君が“勇者様”であるというのならば。


俺たちはまた出会うのでしょう?










どうやら俺は今日に世界を滅ぼす決まりらしくて。
自分が嫌だ嫌だと思っても滅ぼしてしまうわけのわからないことが起こるらしくて。


勇者様ご一行は可哀相なくらいぼろぼろだ。


俺を見て驚きと悲しみをぐちゃぐちゃに混ぜたような表情を、まるで裏切られて捨てられたかのような表情を勇者様は見せるのだ。



「よくぞここまでたどり着いたな、勇者たちよ。俺が相手してやろう!」


もはやお決まりになったような言葉を告げて悪役らしく高笑い。



俺がこのままいれば、世界は滅ぶよ。

でもさ、君みたいな優しい人間もいる世界を壊すなんざ、ちょびっともったいないと思わない?


だから、だからさ。


おれをころしてよ、ゆうしゃさま。










世界に平和が訪れたと、口々に村人たちは言いました。

勇者様たちが世界を救ったのだと、私たちはいたるところで敬愛されました。
仲間たちも嬉しくて嬉しくて、毎晩どんちゃん騒ぎです。



でも私は知っています。
知っているのです。


“彼”は私の最後の捨て身の一撃を、かわさなかったのです。

まだ余力があったはずのその身体を、動かそうとしなかったのです。


彼はあの時と同じように、悲しそうな顔をしていました。
だけどあの時と少し違って、少し笑っていました。悲しそうに、笑っていました。



そう、彼はわざと死んだのです。
自ら命を捨てたのです。

彼は寂しかったのかもしれません。
世界を滅ぼそうとなんてしてなかったのかもしれません。

そんなこと、誰もわかろうとしなかったのでしょう。わかろうとしないのでしょう。



私は知っています。




彼は私があげた赤い花を最期まで大事そうに握っていたのです。

それはもう大切そうに大切そうに握っていたのです。

お花はぼろぼろで。それを見た私は涙がぼろりとこぼれ落ちました。



魔王様は悪者だと皆々が口にします。


それでいいのです。

彼が優しい“人間”であったことは、私だけがわかっていればいいのです。





わーるどえんど




魔王はひとりぽっちの自分の世界を、捨ててしまいました。








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