巡り巡って

赤イ、紅イ、朱イ。


あかいのは火と血。



守れなかった、何もかも。

嘘だ、嫌だ。
失いたくない。



仲間が倒れていくのが視界に入る。



左胸が貫かれる感覚。

そこに触れば、生暖かい温度。


痛みなんて、どうでもよかった。





あの子は、無事だろうか?





「義孝!!」




そう、自分の名前を呼ぶあの子の声に安心する。

あぁ、よかった。無事だった。





慌てる彼女を見ているのは辛かった。


俺のせいでそんな悲しい顔をさせた。
守れなかった……みんなを、俺を信じてくれていたみんなを守れなかった。

……ごめん。





「私は、義孝から離れない!!」


嬉しかったんだ。

でも、俺はもうやり直せない。
左胸から流れる血は、止まらない。




お前のそばに、もういることはできないよ。





もう、視界が歪んで、お前の顔もまともに見られないんだ。





だから、お願い。

せめて、お前らだけは……


生き残っている、お前らだけは幸せになれ。




「幸せに、なれ」





俺のことなんざ、忘れちまえばいい。


忘れてほしくない、だけど。

俺はもう、幸せにできない。




最期の願いを聞いてくれた彼女はふるえていた。

力強く抱きしめられているのに、俺は強く抱きしめ返せなくって。


意識が薄れていく。



もう、終わりなんだ。




離れた彼女。

もう、何も見えない。目をあけてられない。体も動かない。
足音が遠ざかっていく。



ありがとう。


さよならだ――……















「うわぁぁあああッ!」



声をあげて起き上がった。いや、声が出たのは無意識なんだけれど。



クスクスと笑う声が周りから聞こえる。

嫌な汗を拭って、落ち着いて前を見てみると怒りを露わにした古典の教師が俺を睨みつけている。



そいつが俺に向かって叫ぶと同時にありきたりなチャイムがなった。




高校生になり数ヶ月。

慣れ始めた学校。
先生にしばらく説教をされ(授業中寝るな、寝言を言うなといった類だった気がする)教室に戻れば周りにいるクラスメートが笑いながらよってくる。


「何やってんだよ〜義孝」
「怖い夢でも見てたの〜?三好くん」



「……あぁ、さっきの先生が包丁振り回しながら追っかけてくる夢」

「「怖ッ!!」」



適当に話を作って伝えれば、クラスメートは苦笑いをした。




ぎゅうっと、左胸を押さえつける。

大丈夫、夢だ。

城、城主、正妻、奇襲?

昔話の主人公に俺ってすげぇな、しかもバッドエンド。
何度か似たような夢を見たけど、一番最悪だ。


最悪の目覚め。


現在昼休みだ、外の空気にでもあたってこよう、落ち着くかもしれない。
どうしてか抑えられない不安。それを落ち着かせるために教室から出た。






「義孝」

外に出て芝生の上に座り込んでいると聞き慣れた声が耳に響いた。

幼馴染の、声。



「英治……」

「授業中に寝たんだってな……叫び声僕のクラスにまで聞こえたぞ」

英治のクラスは隣。
声そんな大きかったか?


「あー悪ィ」


「大丈夫?」

英治の後ろからひょこりと現れたのは美優。


入学式の日に話しかけられ、今じゃすっかり仲良しだ。




「おー大丈夫大丈夫」



そよそよと風にあたりながらニコリと笑う。
大分落ち着いた。



「……またあの夢をみたのか?」

「あの夢?」



似たような夢は何度か見ている。

みるたびに、英治に話していたからこいつも大体の内容を知っている。



「……あぁ、たぶん、今までの結末」


この夢を元に小説でも書いてみるか?なんて心の中で皮肉をいう。



つながっているような、曖昧な、夢たち。


夢によって描かれた最悪な、結末。





吐き出してしまえば楽になる。

そう信じて、俺はゆっくりと口を開いた。



「城が突然奇襲にあって、燃やされて……」



ぴくり、と目の前にいる美優が反応した気がした。




少しずつ、見た夢を話していく。

話し終わったとき、美優は少しうつむいていて、英治は相変わらず冷静な顔つきだった。



「でも……やっぱ正妻?ってのと宿敵の顔も名前も思い出せねーんだよな」



どういうわけか、重要な人物のことを思い出せない。




「お前はやっぱり……覚えていないんだな」

「……は?」

「だけど、似ているだけじゃなくて……義孝本人、なんだよな?」




意味分かんねぇ。

英治は何を言いたいんだよ。




美優が俺の隣に座り込んで小さく呟いた。



「……ねぇ、その人は、本当にその正妻に忘れて欲しかったのかな?」

「はぁ?」

「だから、『忘れて幸せになれ』って言ったの、本当にそう思ってたのかな?」



寂しそうにそう言って、下を向く。



俺はもう一度、左胸を押さえた。


「……忘れて欲しくなかった」


自分のことでもないのに。



「本当は、そばにいて……ほしかった」

彼女を幸せにしたかった。



まるで自分のことかのように、声を搾り出す。




どうして。
苦しい、悲しい。

お願い、どうか……忘れないで。



「……きっと、忘れてないよ」

「……」

「その人は義孝のこと、忘れてないし、ずっとずーっと……想ってたよ」



泣きながら、美優はそう言って。
ゆっくりと笑った。



「どうしてお前が泣くんだよ」

「さぁ、どうしてだろうね?」








あの夢が昔、本当に起こったことかどうかなんてわからない。


だけど、もし本当のことであるならば。
生まれ変わりだったのならば。





きっと

俺はまた君に、恋をするのだろう。











夢の中の“彼女”が美優であると気付くのは


当分先の話なのだけれど。

-fin-




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