おそばに、

――そばに、いたかった。




目を、ゆっくりと開く。


現代は平成、平和な時代。




血塗られた世界なんかじゃない。
領土を奪い合う時代なんかじゃない。




今の私は荒川美優【あらかわ みゆ】、戦国時代のお姫様なんかじゃない、普通の女子高生である。


昔……遥か昔の記憶を持ったまま生まれた。
いわゆる、輪廻転生。





記憶といっても……覚えているよ。



“俺が、幸せに、してやりたかった……のに、なぁ……ッ”

泣きながら、弱々しくつぶやいた彼を。
愛しい、彼の存在を。



彼……義孝も、この時代に生まれ変わっているのだろうか?




なんて、のぞみのない願望を頭に浮かべ、自分に呆れて体を起こした。




今日は高校の入学式。

だるい体を無理やり動かして学校へと向かった。




学校に近づくにつれて、キラキラと高校生活に胸を膨らませた学生たちが増える。


私と同じ、パリパリの新品の制服をきちりと身につけている人が大多数。

少数派はもう着慣れていて、自由に着崩す先輩方。
おそらく入学式の手伝いがあるんだろう。



校門をくぐろうとしたとき、後ろから苛立ったような声が聞こえる。



大きめで、声を荒らげているその主を周りの新入生たちは振り返って見ていた。




「お前に付き合っていれば日が暮れる!僕は先に行くぞ……!!」

苛立った声の主はそう誰かに言いながら私の横をスっと通り過ぎた。



私は少しだけ目を見開いた。


……あれ?あの人、見たことある。




既視感に襲われる。


そう、昔……昔あの人に私はあったことがある。




……しゅくてき。

彼の、宿敵。

宿敵であり、親友。



そう、戦を唯一楽しそうにしていたんだ……あの人との戦だけは、楽しそうだった。




「……武田、英治【たけだ えいじ】」


ゆっくりとその人の昔の名前を呟く。
スタスタと去った彼に聞こえるはずもないのだが。




「おーい英治!……はぁ、幼馴染にきついこった」


英治、やはり彼は武田英治なのだろうか?



「先に行くなよ……」



呆れたような疲れたような声が後ろから聞こえる。
この人に彼は苛立っていたのだ。




聞き覚えのある声。
忘れるはずのない声。




私が振り返ろうとしたと同時にその人は私の横を通った。




忘れるはずなんてない。

愛おしい人。



声も、表情も、仕草も。

あの時から、変わってない。




「義孝……!!」


思わず声をあげて、腕を掴んでしまった。





「おぅ!……おぅ?」


明るく振舞ったあと、私を見て不思議そうな顔をした。
友人だと思ったら違った、といったように。


へにゃりと困ったような顔を見せて、首をかしげる。




「えーと……悪ぃ……誰?」



変わってない、表情で。
そんなことをいう。




覚えてないんだ。
記憶なんてないんだ。


……覚えているのは、私だけ?





腕を離して、ニコリと笑ってみせた。




「……三好義孝【みよし よしたか】、で合ってる?」

「お……おぅ」


ちょっとストーカーを見るような目で見ないで欲しい。



苗字も変わってないんだ……

じゃあ英治さんも武田のままなのかな。




「……友達が中学あなたと同じだったの。だから、知ってた。あなたクラスの人気者でしょ?」

嘘。だけど、わかるから。
昔、一番そばにいたから。


あなたはクラスのムードメーカーになるようなタイプ。
明るくって、場を和ませられる。



「おーそうなのか!友達って誰?」

「会津ヒロコ【あいづ ひろこ】。別のクラスだったらしいからあなたは知らないと思う」


中学の友達の名前を適当に出す。私の同中学校の友達だから知ってるわけがない。



「へー!うん、知らないわ」


へらりと申し訳なさそうに笑う。

本当に、変わってない。
そう、人を信用しちゃう無垢なところも。



「友達にならない?」

「おー!よろしくな!……えっと」

「美優。荒川美優」

「美優!よろしくな!」



よろしく、なんていって軽く握手をする。






ほら、また巡り合えたね。


私のことを覚えてなくたって、私は君を覚えてる。

この時代でも私は、君のそばにいたい。




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