愛欲少女5

久々の1人はすごく寂しくて、あまりよく寝ることができなかった。


朝、早めに家を出る。

避けたいワケじゃない。
普通に、したいんだけどな。




「おはよー飛鳥ー。メール無視すんなよ」

「んー、あー、ごめん。おはよー」


学校に着くと環が明るく挨拶をしてくる。

環朝早いね、寝坊とかしてきそうなタイプなんだけど。



「元気なくねー飛鳥」
「そんなことないしっ」


わざとらしく明るく振る舞う。


「今日は?」

うちくる?だなんて環がニヤニヤして言った。

「なんなのー、環モテるんでしょー?他の子誘えばいいじゃーん」
「だって飛鳥が一番相性いいんだって、色々と」

「……うーん、まぁ」


別にいっか。
……1人は、寂しいし。


突き放したのは私のくせに、何だか馬鹿みたいだ。



「い……」

いいよ。
その言葉を発しかけたときに腕を強く引っ張られる。


「駄目だよ」




「拓海……?」



拗ねたような顔をした拓海がそこにいた。




静かな朝早い教室。


嘘、なんでこんな早くに来ているの?


そういえば寝ていないのか。
でも拓海はいつものような眠たそうな表情はしていなかった。



私がいないと寝れないって、言っていたのに。

「拓海、寝たの?」

「寝れるよ」




当たり前のようにそう言って私を見た。


「私は、」

「飛鳥がいなくても寝れるに決まってるじゃん」



目をそらして、そう言った。

嘘、じゃあ、私が帰らなかったときは何で眠たそうだったの。
なんで、寝れるのに「寝れない」だなんて言ったの。



環を拓海が睨む。
環は少し驚いて後ずさりをした。





「飛鳥は俺のだから。ちょっかいださないで」




大きく、はっきりと。
教室に響く彼の声。


登校時間になり、多くの生徒たちが登校してくる。


うわ、絶対変な目で見られるじゃん。





ぐ、と拓海が私の腕を引っ張った。

廊下が、たくさんの人のたちが、流れるように目に映った。


私を引っ張りながら教室を出て、拓海はどこに行くつもりなのか?
そんなことは私にもわからない。


ついたのは屋上。
といっても立ち入り禁止で入ることができないので「屋上前の階段の上」に私たちは到着した。


「……拓海」
「もうやめようよ」


私の目の前に立って泣きそうな顔を見せた。
昔から変わらない、子供みたいな表情。


何を?
と問いかける前に拓海が言葉を続けた。



「もっと、自分を大切にしてよ」

「……大切に、してるよ」

「してないっ」


しているよ。

誰かに愛されたいから今の生活を続けているだけだ。
自分なりに自分を大切にしている。



……本当に?


愛されたいなんて、

ただ、家族に、拓海に。
……言えなかった一言があるからだ。



「飛鳥」

──俺は、飛鳥が好きだよ。


優しく耳に残った言葉が涙を誘う。



「俺は飛鳥の側にいるよ。ねぇ、言ってよ」

私のことをわかっているのは、目の前の彼だ。




「……寂しい、よ」


誰にも言えなかった、たった一言。
子供のような、泣き言。



お母さん、お父さん、お兄ちゃん。

ただ、側にいて欲しかったんだよ。

側にいてほしい。




「……ねぇ、寝れるのに寝れないって言ったのは何で?」

「飛鳥が、俺の側から離れないように」


結構理性を保つの大変だったんだよ?と笑って言った。

……拓海の思い通りになっていたわけだ。




「お兄ちゃんになんて言われたの?」

帰るとき、なにか言ってたよね。

「『飛鳥はつかまえておかないとすぐにどっか行っちゃうよ』って」

……私には拓海を「放っておけ」って言ったくせに。




離れないでね。

そういって拓海が私に笑いかけた。



まぁ、仕方ないからそばにいてあげる。

私の言葉に拓海は苦笑して「ありがとう」と言った。



お礼を言うのはこっちのほうなんですけどね。




多く愛されたいなんて言ったただの寂しがりやの私と、
私の気を引くためにあざとく色々やっていたらしい可愛い可愛い私の幼なじみ。




2人は、手をつないで教室へと向かっていった。





-fin-




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