愛欲少女2



「飛鳥は、俺の前からいなくならないよね」





寂しげにそう呟いた。


いなくならないよ。
そう言うと拓海はふにょりと笑って重たそうに瞼を下ろした。



あ、寝た。




呼吸音を合わせると、寝やすいんだっけ?




私は、拓海に合わせてゆっくりと呼吸をして。

深い、眠りに落ちた。


お父さん、お母さん、お兄ちゃん。
みんながいなくても寂しくないよ。


拓海がいるもの。

ね、拓海。




わたしと一緒に遊んでくれるよね。

わたしと一緒にいてくれる、よね?






夢に出てきたのは、不安げな表情を見せた幼い私。




「……ん」




ゆっくりと目を覚ますとベッドの上に1人、微かに良い香りが香る。


これもいつも通りだ。




「おはよ」

「おはよう、飛鳥」




食卓に2人分の朝食が並んでいた。



へにょり。

愛嬌のある笑顔を浮かべる拓海。



「ごはん食べよ」





拓海は料理が上手だ。


いただきます、と手を合わせて食事に手をつける。



おいしい朝の和食料理。


「拓海ぃーお嫁さんにおいで」

「えー、お婿さんがいいなぁ」




冗談で笑いあう。

幸せな時間だなぁ。

家に帰って制服に着替えた。



……お父さんお母さんのために拓海特製料理を置いておこう。

さっさと学校へ行く準備をして家を出る。



家の前に立っていたのは同じ学校の制服を身につけた拓海。


アレンジもせず真面目に着ちゃって。


大きめのカーディガン。所謂萌え袖というやつか。

袖から覗く細い指が駅の方を指した。



「早く行こ、今日日直なんだ」

「今日、拓海だったっけ?」



幼なじみ、同じ学校、同じクラス。



何らかの変な糸で結ばれているのかもね、なぁんて。




電車に揺られて数分。

学校に到着した。




「おはよー」


教室に着くと環と目があった。




「おっすおーっす。昨日のモモバラみた?」

「ドラマ興味ないし、寝てる」

「はやっ!10時だぞ!?」




昨日何もなかったかのような、やりとり。


「おー……観月、モモバラみた?」

「興味ない」



拓海がふいっと環の横を通り過ぎる。





「……俺観月苦手だわー」

「拓海はね、ふわふわしてるよね」



周りに合わせようとしないから、いつもひとりぼっち。


ふわふわと、どこかへ行ってしまいそうな自由人である。



「幼なじみだからってよく一緒にいれんね」

「可愛いじゃない」


拓海は、放っておけないの。

こう、母性本能が、ね?


私が母性本能って言うなんて、笑える。




「あー飛鳥。そういや俺の家にキーホルダー落としてってたぞ」

「まじで?」



カバンを見るとお気に入りだったはずの有名キャラクターのキーホルダーがなくなっていた。


全然気付かなかった。


しかし、環の手にもキーホルダーはない。



「今度来るときでいいべ?」

「めんどくさー」





呆れたように笑う。


「下心見え見えだわ」

「まあな」

「隠す気ないよね」




こうやってふざけられる相手がいると楽しいよね。



あ、視線。
視線を感じる。


その先を見ると、拓海。



一瞬視線が交わって、ぱっと逸らされる。



どうかしましたか、拓海さん?




始業のチャイムが鳴って、クラスメートは自分の席に座りだした。



私は面倒くさげにどかりと座り込んだ。



教室に入り早々黒板の前に立ち連絡をする担任を横目に、窓側を眺めた。



私は廊下に1番近い列の、後ろの席だからクラス全体を見渡せる。





少しだけ開けられた窓から入り込む風が、窓側席の拓海の髪をふわふわと揺らす。



拓海猫っ毛だから、揺れている髪がすごく柔らかそうに見える。




真剣に担任の話聞いてる。真面目か。

いつの間にか担任の話が終わっていたようで、クラスが再びざわめきだした。



次なんだっけ、生物か。


生物か物理か化学の選択科目。



女子は圧倒的に生物が多いんだよね、何故か。




環は物理だったっけ。

女子に友達なんていないからなー。




「拓海ー」




よし、拓海と一緒に行こう。


普段は1人でいくけど、たまにはいいじゃないか。




「飛鳥?」

「一緒に行こう」

「うん」



拓海の横に並んで歩き出す。




「飛鳥、友達は?」

「いると思うの?」

「ううん。女の子は、いないよね」


はぁ、正直だなこの子。

その通りですけれども。



生物室にゆったりとした足取りで向かう。

時間はあまりないのにも関わらず、マイペースに。



「拓海こそひとりぼっちじゃん」

「俺はひとりぼっちじゃないもん」


もんとか言うな可愛い。

拓海が猫っ毛を揺らして私に向かって柔らかく笑った。



「俺には飛鳥がいるもん、ね」



ふにゃり。

恥ずかしげもなく、よく言うよ。


嬉しそうに、目の前の男の子は笑う。



そっか、じゃあ。



なぁんだ
「それなら私も、ひとりぼっちじゃないね」


「そうだよ、飛鳥もひとりぼっちじゃない」




私と拓海は、ふたりぼっちだ。


でも、まぁ。




「飛鳥、チャイム鳴っちゃった」

「まぁ、生物の先生開始10分は来ないから大丈夫だって」

「そうだね」

「真面目にやれーってね」

「ふふ、飛鳥が言うの、それ」

「あら、ダメ?」

「ううん」





君となら。


ふたりぼっちでもいっか。






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