溺欲彼氏2



「ご馳走様」


「風呂のお湯溜めといて。先入っていいよ」

「雄大入りなよ、私が片付けておくから」


じゃあ、お言葉に甘えて。と雄大は歩いていく。



使った道具や皿を洗っていく。
水冷たいなぁ。



シンクに水が打ちつけられる音を聞きながら、手についた泡をぼうっと眺めた。



……あれ、雄大、その気なのかな。


どうしよう、心の準備ができてない。
さっきまで別の男とヤろうとしてた女の言葉じゃない。



いや、うん。
やっぱり好きな人だと恥ずかしいよ。




皿を拭きながら1人で納得して頷く。



……いやいやもう大人だし?

別に初めてってわけじゃないし?
は?全然余裕ですし?



誰に言い訳してるんだか。




「明菜ちゃん」


「うはぁい!?」


「なんかごめん……?」



訳の分からない悲鳴出た。とても恥ずかしい。


「は、やいね?」


「シャワーだけ浴びたから。明菜ちゃん入っていいよ」


「わかった」



そそくさと風呂場へ移動した。

お風呂のお湯に沈んで、もやもや考える。


下着は大丈夫。
ショーツは持ち歩くことにしたから。落としたりしたら大惨事だよね。

ブラは、まぁ、寝るだけならつけなくてもいいじゃん?
……寝るだけなら。



ぶくぶくと水を息であわだてる。

湯船に入ってないのにお湯をはっているのは私が入るからか。



気持ち念入りに全身を洗って、お風呂から出た。

うむ、完璧。



「雄大、お風呂のお湯抜いていいの?」

「んー、洗濯に使うからそんままでいいよ」



ドライヤーで髪の毛を乾かして一息つく。



もう寝ようか、なんて雄大の言葉に視線を逸らした。



「私、ソファで寝るから」

「……風邪引くよ」

「大丈夫」

「大丈夫じゃない」


腕を引かれて寝室へと連れて行かれる。



豆電球でほんのり部屋はオレンジ色に灯る。

いつも通り、と言わんばかりにベッドに寝て、雄大は私の頭を撫でた。

「おやすみ」



目を細めて口をふにゃふにゃにする。

目を閉じて、眉の力が抜けた顔を眺めた。


……何もしないの?

いやいや、期待してたわけじゃない。
してたわけじゃ、ないから。



いやでも、ちょっと拒絶したけどそれは照れからであって、嫌だからじゃなくて。


雄大はやはり草食系だ。

くそう、ドキドキしてるのは私ばかりか。



いつもこれで寝てたけど、寝れていたのは雄大が私を好きじゃないから何も起こらない、と思ってたからであってですね……!


もやもや考えて、雄大の頬に触れる。



どうしたの、そう言いそうだった唇を唇で塞いだ。



「……明菜、ちゃん」


離れた唇から驚いたような声が発せられる。

彼の上に乗ってキスを再び仕掛ける。
なんだこれ、発情期の動物みたいだ。


下唇に噛みついて、舌で舐める。

彼が拒絶しないことに調子に乗って、舌をねじ込んだ。



「……ん、」



あれ、そっぽ向いて目をぎゅってしないの。
そういえばあの時、キスを嫌がっていた雄大は何だったのだろう。



「ねぇ、何で前、キス拒絶したの?」

「……恥ずかしい、じゃん」

「ヘタレか」

「こうやって、彼女に押し倒されて。逆じゃん」

「逆だっていいじゃない」



普通じゃなくていいじゃない。
みんな違ってみんないいんだから。


男が草食系なら、尚更ね。



油断した刹那、視界がぐるりと一転する。

天井と、雄大。


あれれ、逆に押し倒されているぞ。



「俺は普通の方がいいかな……せめて最初くらいは」



顔の色まではわからないけど、おそらく赤いのだろう。

今度は雄大からキスをしてくる。



雄大のキス、なんていうか
……ねっちょりしてる。


いや、嫌だとか悪いとかじゃなくて。
悪いように聞こえるかもしれないけど本当そうじゃなくて。


動物的なキスじゃない、理性の残った感じ。
それでいて濃厚。

優しくて、相手を伺うようなキスだ。




「ゆ、うだい……するの?」

「しないの……?」



低い声で囁かれてぞくぞくする。

やめてよ、そういうの。



「煽っといて、そういうこと聞くの?」



綺麗な唇が私の上で弧を描く。

色気に縁のない草食野郎のはずなのに!
やけに色っぽく見える雄大の瞳が細められる。



たまに見かける「欲を含んだような瞳」というのはこういった表情のことを言うのか。



煽ってない……いや、煽ったか。




「明菜」



私の名前を呼び捨てて触れてきた彼。


私は雄大のシャツのボタンにそっと手をかけた。





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