まだ静かだ。
 どの教室も人がまばら。
 
 まだ朝は早い。


「あれ、桐谷」
「隆文くん」


 そこにいたのは中学の同級生の隆文くん。
 びしょ濡れだ、サッカー部も朝練あったんだ。


「まどかは?」


 同じく中学の同級生であるサッカー部のマネージャーになった少女の名前を出すと「天気悪いからサボりやがった」と隆文くんは悪態をついた。


 ……賢明な判断だと思うけどね。
 朝練にきた私たちはこんな大惨事になってるわけだし。


「桐谷は……陸上だったよな。朝練人少なくね?」


 陸上部の朝練を見たのか、彼は不思議そうに顔を傾けた。

「基本自由らしいから、みんなまどかと同じ理由で来なかった」
「なるほどな」


 サッカー部はマネージャー以外強制だったのかな? 他にも、何人かジャージの人たちが更衣室へと歩いて行った。


「高校に入ってからあんま話さないから、なんか新鮮だな」
「うん、そうだね」

 クラスも部活も違うから、あまり関わらないんだよね。
 まどかもそう。

 廊下で会ったとき話すとか、メールでちょっとやり取りをするをする程度で。
 少し関わりが薄くなってしまって悲しいけれど、それでも会えば気楽に話せるからいいよね。

 来年は同じクラスになりたいなぁ、とか思ったり。


「そろそろ隆文くんも着替えないと風邪引くよ?」
「あーそうだな、じゃあな」
「うん、バイバイ」


 隆文くんは更衣室の方へと歩いて行った。

 さて、教室に行こう。自分の教室もやはり人は少ない。
 朝練から逃げてきた人が濡れた髪を気にしながらぽつぽつといるくらいだ。

 席に座ると、前の天音ちゃんの席に雑誌が置いてあった……没収されちゃうよ。
 とりあえず先生に見られないようにと、雑誌を机の中にしまおうと手を延ばした。
 ばさり、と雑誌を落としてしまいやってしまったという気持ちが湧く。

 手に取ろうと視線を移した時に、目にうつったのは相川先輩だった。
 あ、また載ってる。

 オシャレな格好をした相川先輩はこちら側に向かって真面目な顔を向けている。
 私が男だったらこの服を買ってしまうかもしれない。

 ゆっくりと、雑誌を閉じて天音ちゃんの机の中へと入れておいた。


 時計の針が進んで、教室に人が増えていく。



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