庶民じみた公園よりも綺麗な喫茶店の方がだいぶ似合うであろうその人は、私の声に反応する。
水を飲みながら、横目でちらりと私を見た。
「えぇっと……小賀高校の子、だね」
にこり。あれからもう偽物にしか見えない笑みを浮かべる。
ジャージのままだから同じ高校なのは把握できたのだろう……本当に顔覚える気ないな、この人。
「どうも。陸上部、ウーロン茶の桐谷梓と申します」
「……あはっ、ごめんねぇ。俺、顔覚えるの苦手でさ」
軽くそう言い放つ先輩はどこか嘘臭く感じた。
「うん、そっか。うん、俺はもう帰るから、じゃあねウーロン茶さん」
「桐谷梓です」
からりと笑って公園をゆったりとしたペースで出て行く。
私が来た方向とは反対……結局この近くに住んでるのかな?
……本当に気になる。
優しい一面を見せれば、クールに振る舞う社会的存在で。あれが素だとは決めつけられないけど冷めた表情を見せつけて。
仕事後なのにこうして走って。
息の切れ方からして、真面目に、結構な距離を走ったのだろう。
そして、綺麗だ。
相川先輩は、綺麗に跳ぶ。
きっと周りのミーハーな子たちと変わらない。
けど
きっとその子達よりは相川先輩のこと、知ってる。
この気持ちを恋心と呼ぶにはまだまだ遠い。
憧れ、のほうが近いものだ。
「……私も帰ろう」
段々と人気がなくなってきた公園から出る。自転車を押している人物が、目の前に現れた。
「あ、桐谷さん」
「佐々木先輩!」
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