アリスとナイト、後日談
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 優しい声が聞こえる。
 低めの、落ち着いた声。



「……む、歩」

その声は何度も何度も繰り返し私の名前を呼んで。
私は段々と意識を取り戻していく。



「歩」


ぱちり。私の名前を呼んでいた主と目が合った。
灰色がかった髪の毛が揺れて、切れ目がじいっと私を見ていた。

 
「なななナイッ……! じゃなくて、キッ……!」
「落ち着きな?」

 ナイトでもキングでもないし。
 にっこり笑ってはじめさんは「おはよう」と言った。


「おはよう、はじめさん……何でいるんでしょうか」
「大学の奴らと遊んでて」



 あぁ……お兄ちゃんと、他の友達も来てるんですね。
 ゲームでもやってるのかな。融さん弱いよね、ゲーム。

 ていうか、そんなことどうでも良くて。
 至極当然のようにどうでも良くて。


「人数多いから交代でやってたんだけど、飽きたから」
「飽きたからって女の子の部屋に来るのはどうなんでしょうか?」
「どうだと思いますか?」


 質問を質問で返さないでくれますか?



「歩ゲーム好きだろ?  一緒にやらないかなって、思って」
「……ご飯食べたら行きますね」


 せっかくの休みなんだけど……まぁ、はじめさんと一緒にいられるならいっか。なんて思ったり。

 はぁ、と溜め息。


「溜め息吐いたら幸せ逃げるぞー」
「未だにはじめさんのキャラに慣れない……!」

 悔しい。
 ナイトだったりキングだったときの方が長い付き合いだからか、そもそもナイトからキングでも慣れなかったのにそんなにキャラチェンジされると混乱するんだよ!
 これが素なのはわかるけど。


「じゃあ馴染みのあるキングに変えるか? ……それともナイトに変えましょうか?」


 喋り方をひょいひょい変えて、はじめさんは私を見てにっこり笑う。
 彼はわざとらしく、時折「キング」にも「ナイト」にもなるのだ。

「変えなくていいです。からかってます?」
「そんなことない」


 くすくすと楽しそうに彼は笑う。
 楽しそうで何よりですこのやろう。


 ふわり。
 不意にはじめさんが私に触れて、彼と私の距離は縮まった。

 ちゅう、と、触れるだけのキス。
 突然の、キス。


 やっぱり彼が何を考えてるかなんて、私にわかりはしないのだ。


 赤い彼が最期に笑ったのも。
 青い彼が突然私を刺したのも。
 目の前の彼が、脈絡もなく唇を合わせたのも。

 私にはわかりえない行動で。


「何ですか、突然」
「おはようのキス?」


 首を傾げながらそう言った青年は笑う。
 頬を少しだけ赤くして、にっこり笑う。


 はじめさんの存在を確かめるように、彼の赤い頬に今度は私からキスをする。
 彼は確かにちゃんと、私の前にいて。
 これからはいなくならないで、きっとずっと私の側にいてくれるのでしょう。


 彼は「騎士」でも「王様」でもなくて。
 私の、「王子様」なんだ。

 ……なんて、くさいかもね?




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