久住。
名前を呼んだ男は笑う。
名前を呼ばれた少年は目を見開いた。
番号を呼ばれるなり久住は引っ張り出されて恐怖を覚えた直後のことだった。
必要なくなったのか。
処分されるのか。
珠希みたいに。
「金は払ったんだ、丁重に扱って頂きたい」
聞こえてきた声に久住は顔を上げる。
しばらく会わなかった人がそこにいて。
「八王子、さん」
「よぉ、待たせたな。遅くなっちまった」
久住を掴んでいた男を金髪の男が蹴り倒す。
金髪の男、安川を見て久住は目を逸らした。あのことを忘れるためのように、目を逸らした。
「やぁ、申し訳ないですねー八王子さん。こいつ商売とか礼儀がなってなくて」
そう言って、安川は蹴り倒した男に銃口を向け、躊躇いもなく撃ち殺した。
「本当こういうの、使えないんですもんねー」
「……安川」
「それでいいんですかぁ?もっといい子いますよぉ、色んな意味で」
「結構だ」
話についていけずとも久住は動揺していた。
その人は、八王子平助は。
片腕が。
指が。
なくなっていた。
「はちおーじ、さん」
「どうした、久住」
「何で、?」
おれをかったの。
うではどうしたの。
ゆびも、なんでないの。
聞きたいことは山ほどあるけど。
平助は己の腕に視線をやってから苦笑した。
「仕事でやっちまったわ」
軽い失敗であるかのごとく、軽くそう言い放つ。
片腕と、片方の小指。
小指は必要がなさそうに見えて大切なものである。
小指がなければ、力が入らず銃やナイフも上手く扱えない。
兵士にとって、致命的だ。
「何で、」
「もう、いい」
そんな場所にいなくていい。
平助は目を細めて、優しく笑う。
「こっち来い、久住」
片手を広げる平助。
久住はただ、純粋に子供のように飛び込むことなどできなくて。
ゆっくりと、平助の袖を掴んで俯いた。
「今日からお前は八王子だ」
どうしてそんなこというの。
どうして、“かぞく”なんてたいせつなそんざいにしてくれるの。
久住は訳がわかんなくなって。
ただ、涙を零した。
「ほら、帰るぞ」
久住が惹かれるように掴んだ手は、やけに温かかった。
かぞく
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