「お気に入りですかぁ?」


あれから毎日、平助は久住を自分の部屋へと連れて行く。

へらへらとした安川を平助は無言で見ると納得したように首を傾けた。


「情を持つのは可哀想ですよー?」


飼えもしない野良に情を持つのは最悪だと安川は笑う。









「……なぁ、奴隷っていくらで買えるかねぇ」
「はぁ?八王子奴隷欲しいの?借りれんじゃんいくらでも」


ぽつりと呟くと、隣にいた同期が驚いたような声をあげた。


いや、借りるとかじゃなくてな。
というか、もう物みてぇな扱いじゃねぇか。


平介は心の中で悪態をついて同期を睨む。



「……まぁ、優秀なのは高いんじゃね?」


久住は優秀なのだろうか。

射撃とかの様子は見たことねぇから、よくわからねぇな。



あぁ、そうだ。

今日も。
「借り」なければならないな。


だるそうに平助は空を見上げて、意味もなく溜め息を吐き出した。

何度も何度も「借り」て、久住は平助に懐いたようにも見えた。
人を信じないであろう人生を送ってきた少年の気持ちなど、平助にはわかり得なかったから、断定はできない。



「久住」


大きな大きな家に帰って、少年の名前を呼ぶ。


「はちおーじさん」


目を細めて、少年は嬉しそうに近寄ってきた。さながら飼い主を見つけた犬のように。

存在を確かめるように抱きしめて、部屋へと連れて行く。




部屋で少年は楽しそうに笑う。
自分の境遇も何もかも忘れて幸せであるかのように、笑う。



「どうしてお前は笑うんだ」



そんな境遇で。

救いたいと思う反面、気持ち悪いとすら、その少年が気味悪いとすら平助は感じていた。


久住はぽかんとした顔をする。


「……わ、らわない方が、いーですか?」

「違ぇ、どうして笑えるんだ、そんな辛い目に合ってんのに」



久住の肌には常に傷があった。

治療をしてもしても減らずにそれらは増えていくだけだ。
治すことも意味ないんじゃないかと思えてしまう。


布団にくるまった久住は目を細めて、口角を少しだけ釣り上げる。



「……八王子さんが、いてくれるから」


久住は、はっきりと言い放った。


「よくわかんないけど、八王子さん、お父さんみたいだなって。優しくしてくれる人がいるなら、頑張りたいなって」

「……そうか」


平助が頭を撫でてやると、心地良さそうに久住は目を閉じた。

しばらくも経たない間に、寝息が聞こえてくる。



「……待ってろ」


そう言って、平助は眠る久住に笑いかけた。
ゆっくりと、少年の頭を最後に撫でる。




その日から、平助は久住の前から姿を消した。







「あなたが居るから」






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