リヤン、おすわり。
おて。
ふせ!

リヤンは真穂の命令に素直に従い、芸を行う。



「ははっ、リヤン、すっかり真穂ちゃんに懐いた」

久住が笑ってその様子を見ていた。

真穂はリヤンの頭を撫でながら、ゆっくりと久住を見る。


久住が優しく笑い、それに応えるように真穂も笑う。


「……似てるなぁ」

ふいに、久住がぽつりと零す。

「何が?」
「真穂ちゃんが」
「何に?」
「俺の好きだった子に」


好きだった。過去形。

こんな惨状の世界じゃ、死んでしまったという可能性が高いのだろうと真穂はすぐに思考する。


「好きな人とか、いたんだね」

「……俺だって、人間だよ?」


ゆっくりと、目を逸らして。
久住が目を伏せながらそう言ったことに真穂は首を傾けた。

「人間でも恋愛しない人はしないよ、私とか!」


真穂は好きな人ができたことがない、と何故か豪語する。


「まぁ、恋愛というよりは憧れ……だったかな」

久住の言葉に、真穂は興味深げに近付いた。
恋愛ごとに興味ない、といったものの他の人の話には興味津々で、真穂は友人の話もいつも積極的に聞いていた。


「憧れ?」

「うーん、そこにいた人、殆ど彼女のことは悪くは思ってなかったと思うよ」

凄腕戦士とかだろうか。


「よければ詳しく聞いてみたい」

似ているらしいその人について。
久住は瞬きを数回、真穂を見つめた後に口を開く。


「俺小さい頃……うーん、施設、みたいなところにいたんだよ。
そこ結構殺伐としててさ、飯とかも食えなかったりもしてさ」


そんな施設に私は行きたくないな。
結構辛い思いしてきたんだなぁ。

「その子は、自分の分の飯も他の子に分けたりしてたの、少ない中から」


優しい人なんだ。


「地獄みたいな世界で、太陽みたいな子だった……殺されたけど」

悲しそうな瞳。
久住を見た真穂は心の中で呟いた。


「会ってみたいなぁ……お墓は?」

ただの、興味なのかもしれない。
久住さんの好きな人に、私も会ってみたかった。

「ないよ」

「じゃあ、作ろうよ」

「作るの?」

「ちゃっちぃのしか作れないとは思うけど、それでもお墓は必要だしっ!」


申請してくると真穂は立ち上がる。

その太陽みたいな人さんは武力派の人間じゃないけど、それでも頼んでみるだけ頼んでみよう。
無理だったら手作りになるけど。

あの……動物の墓クオリティの。


「その方の名前は?」


「えーと、槇田。槇田珠希」


任せてください、なんて張り切る真穂に、久住は困ったように笑った。



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彼の好きな人
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