真穂は有紗から聞いてみた。
ゴミ箱部隊とやらの話を。
党首に逆らった人間。
班の規律を乱す人間。
使い物にならない人間。
要するに、あぶれものがそこに送られる。
無理難題な任務をさせられ、大体は死んでいってしまう。
処分、に等しいのだろう。
殺戮兵器さんもZ班にいただとか。
あれは失敗作だとかなんだとか、真穂の耳には届いていた。
久住のように、何度も生還していたようだけれど。
あぁ、鎮魂歌を歌っていたのも、使い捨てされた仲間を弔っていたのか。
真穂のその行動は、ただの興味本位だった。
「私、別行動させていただきます」
「敵にあったら逃げろよ」
「はい、偵察行ってきます」
偵察という名目上で。
A班の班長に許可をもらって、久住が当たっている区域へと踏み込む。
こっそり久住の実力を確かめようという真穂の算段だ。
「──」
久住は楽しそうに歌う。
戦場とは思えないくらい。
対称的な彼は、何だか歪んで見えて。
どこか怖くすら、思える。
「……リヤン」
久住はリヤンに呼びかける。
それと同時に、敵が彼に襲いかかった。
歌につられたのだろう。
久住は表情を歪めて笑った。
真穂にはどうして笑っていたのかはわからなかった。
だけど、確かに笑っていた。
立ち上がるなり一歩銃弾を避けるように下がって、ハンドガンを構える。
……あれ、2丁持ってる。
彼もまた、殺戮兵器と呼ばれるのに相応しいように思えた。
隙のない立ち回りで、一発一発確実に、頭に銃弾をぶち込んでいく。
弾をリロードする手間を省くためか、弾切れの銃を投げ捨てて大腿に巻き付けていたホルダーから別の銃を取って使用する。
なんだっけ、歌声で惑わす怪物。
そう、セイレーンだ。
真穂は久住をゆっくりと見つめた。
久住はセイレーンのようだ。
歌で惑わし、おびき寄せて一気に叩く。
一段落ついたのか、久住は落とした銃を拾ってホルダーに納めた。
「……いないなぁ」
ぽつりと呟いた言葉が微かに聞こえる。
誰かを探しているのか。
リヤンの鳴き声、足音。
それが近付いてきて、
油断した隙に、またのしかかる。
「まぁーーーっ!」
わけのわからない間抜けな叫びとともに真穂の愛銃が彼女の手から離れた。
「……」
見えないけれど、久住の呆れたような溜め息が微かに真穂まで届いた。
「何、やってんの?」
「あは、バレちゃった」
真穂は起き上がって久住を見る。
「拳銃、そんなに支給されるの?」
「死んだ人から拝借したの。1丁じゃ結構キツいし」
なるほど、形見武器か。
「人が死んでないのに歌を、歌うの?」
真穂の言葉に、久住はゆっくりと目を細める。
「敵に見つかるように、わざとに決まってるじゃない」
真穂は感心した。
そんな1人で、大人数を相手するようなことをあえて行うなんて。
真穂の友人、有紗が聞けば「気持ち悪い」と否定するのだろうけど。
すごく、すごく、強いんだね。
そう言って真穂が笑うと久住が困ったように真穂の顔を見ていた。
「ここは危ないよ、真穂ちゃん」
「私も一応エリート!だし、久住さんも強いんだから大丈夫なのです」
にっかり更に真穂が笑うと、彼も笑った。
「……君は、太陽みたいだね」
そういった久住の笑顔は、何だか泣き出しそうにも見えた。
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セイレーンの狂気
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