飼い主を無くした刹那がどうなったかってぇと、飼い主を党首に鞍替えたって結果で。


まぁ、酷いことはしないしちゃんと寝れるようになったしまだいいんじ ゃねぇの。




長年奴隷として培われてきた他人への「道具」としての依存癖はなくならないようだ。


命令に従順で。
飼い主を欲する。





そして元気におなりになった刹那はあちこち走り回る。

雪を見た犬かってくらい、はしゃいでるかのように走り回る。
いや、はしゃいでるわけじゃねぇけど。



仕事中も気付けばいなくなることがほとんどで、もう手がつけられない。

スコープ越しに探しても見つからねぇよ。
わんぱく少年かよ。


小野寺刹那(26)だろ落ち着けよ年的に。


帰ってくるころには血みどろだ。そいつ自身の血なのか他人の血なのかも判別不可能。

ポケットには大量のドッグタグ。
バディ制のおかげで俺もこれの恩恵を受けております、えぇ。






そして、その日も。

あいつは自己中心的行動に走って姿を消した。



月が雲から顔を出す瞬間しか光はない夜。

スコープを覗いても人は見にくい。
見つけても敵なのか味方なのか判別がしにくい。

夜戦はだりぃな。
早く帰って寝たい。




スコープを覗きながら、ふぁ、とあくびを漏らした。


全然いねぇもん、人。
サーマルスコープとかくれよ、熱とかで判別できるやつぅ。



油断しきってた耳に、足音が響いた。

やべ、誰か来た。



敵か味方か。

大丈夫、位置的に味方だろ。




月の光で照らされて、そこに立っていたのは刹那だとわかる。


行ったときと違う部分に、違和感を覚えた。




「何、その、女の子」


刹那が背負ってきたのは、少女だった。

え、ほわっと?
何、誰。



「拾った」


拾ったってなに。

思わず苦笑する。


動物を拾ったならまだしも。
こんな状況で動物拾われても困ったもんだが。



「1人にしたから」


その言葉に納得をする。

あぁ、その子の家族殺したの?



「その子は殺さないの?」



殺せよ、と言っているわけではない。

いつもと違う刹那の行動が気になっただけ。



「あぁ」

「どうして、助けたの?」



殺さなくとも、放置するという手もあった。

少なくとも、以前ならそうしていたろ。



月は隠れていて、そいつの表情はよく見えなかった。



「……わからない」



自分でもわかっていないのか。
声色は不思議そうで、おそらく首を傾けているのだろう。



「救いたかったのかも、しれない」

──誰かを。



その言葉を嬉しく思える反面、悲しくも思う。




あの刹那が誰かを救いたいと言う。
でも彼は、これまで奪うだけの存在だった。


感情を持とうとしているのかもしれない。
でも、本音を言うと3年一緒にいたからこそ無理なんじゃないかと思ったりする。


少女を逆に、苦しめてしまうかもしれない。




──それでもいいの?

それでも、いいよ。




刹那が変われるかもしれないなら、少女を迎え入れよう。


何より、変わろうとしているのなら。
それだけですごい進歩だろ。

大事なのは結果じゃない、過程だろ。



今回だけで無理なら、何度も繰り返せばいいのだから。
本人がやりたいようにさせればいい。



「……何笑ってんだよ」




あちらからは俺の顔が見えていたらしい。


いや、別に?と返して口元を押さえた。

だって、嬉しいじゃん。
変わろうとするなんて。
たとえ、変われなかったとしてもね。





何度でも繰り返そう



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