部屋に戻ってさっさと着替える。
訓練室に行けばいいのか?
どっち。対人?射撃?
とりあえず近い対人訓練室に向かった。
あ、いるし。
「ほら」
投げられたのはラバーナイフ。
まじか、ナイフありか、まじか。
受け取って、相手の方を見た。
……見たら、突然ナイフを向けられている。
向けられているというか、勢い良く突きが。
まだ準備できてねぇよ!?
「ちょ、たんぶべっ!!」
ナイフは鼻に直撃。
ラバーでも痛いものは痛い。
鼻血でるこれ。
俺は勢いに逆らわず背から崩れた。
「ぶっ……ふざけないでくれますか!!まだ準備できてねぇよ!」
「敵は突然襲ってくるものだ」
これは訓練だアホか!
おちゃめさんか!真面目な顔して!
周りで自主的に訓練している人たちが変な目で見てくる。
俺、ただの命知らずに見えるよな。
「真面目にやれ」
「あんたがな!?」
敬語使うのもアホらしいわ。
呆れたように深い息を吐き出したそいつは懐から2つ。
本物のナイフを取り出した。
リアルナイフ。
1つを渡されて、首を傾げる。
おいおいおい。
「気が抜けるなら、本物使うか」
これ訓練だよな?
あれ、俺死ぬの?ここで死ぬの?
ほらほらほら、周りもざわついてるわ。
「い、いやぁ、これはちょっと……刺さったら死にますって」
「殺せるなら殺してみろ」
「マジ?」
「本気でいく」
あ、これ、死ぬわ。
グッバイマイライフ。
構え始めるもんだから慌ててこちらも身構える。
そりゃあ、もちろん。かわすのが精一杯で。
目こえーし動きこえーし何なのなんで俺こんな目に合ってるんだよ!
せめて殺伐な世界だからこそ気の合う相棒と過ごしたかった!
かわし損ねて、ナイフが腹あたりに刺さりそうなのがやけにスローモーションで見れた。
あ、これ死ぬわー。
ぐ、と目を思わず瞑ると体が宙に浮く感触に襲われる。
はっ?
ずどん、と鈍い音が聞こえ背中に痛みが走った。
「ぐえっ」
腹あたりに重さがかかり、カエルが潰れたような声が口から出る。
目を開けると俺の上に馬乗りになったそいつが、自分の膝を机代わりに片手で頬杖をついていた。
ひたひた、と右頬に冷たい感覚が小刻みに伝う。
ナイフの腹で叩かれてる。
「目を瞑るな、チャンスを失う」
い、生きてる!
だなんて喜ぶ気力もない。
隙なんてねぇくせに何がチャンスか。
「……弱いな」
えぇ弱いですとも!うるせぇなこの野郎!
そいつは立ち上がって訓練室を出ようとした。
「外行くぞ」
お次は射撃訓練ですか。的狙うだけだから命の心配はないようだ。
外に向かって、並んでいる銃から選ぶ。
左から、と指示されて左側にあったハンドガンから順に的を狙う。
3つほど使ったところで、止められた。
「……もういい」
ほぼ外れ。
……そうだよ。ノーコンだよ。
お陰で功績もあげられずにひもじい生活なうだわ。
むしろ生きてることが謎だわ。
「……クソAIM」
標準が定まらないことに対しての暴言。
クソとか言うな。
「バディって何だ?足を引っ張る存在か?」
何も言い返せない。
「……なら、手本を見せてくださいよ」
そして外せ。
……なんて、アホなこと考えなきゃよかった。
全部的に当てたその人は真顔だった。
さも当然のように。
「……バディ変えてもらえるように申請でもしてきます」
小野寺さんは俺の話も聞かずに指を顎に当てて、何かを考えているようだった。
「党首から直接聞いたのか、バディ」
「なんかわざわざ呼び出されました」
「なんて」
「小野寺さんにぴったりだ、と」
言ってて虚しくなるわ。
紙で掲示なのに、他の人は。
そうか、と少しまた黙って。
しばらく後に俺に視線を向けた。
「お前、1、2、3から好きな数字選べ」
「えっ、と……じゃあ2で」
「林檎」
林檎?
小野寺さんは横に積んであった林檎におもむろに手を伸ばす。腹でも減ってんの?
一番右側に置いてあったスナイパーライフルを掴んで俺に投げてよこす。
人のいない方に向かって、離れたところで自分の頭に林檎を乗せて俺の方を見た。
「当ててみろ」
少し張り上げられた声。
はぁ、はぁ?
林檎に当てろと言うのか。
無理だろ無理無理。
てかこれ実弾使ってんだから下手したら死ぬぞ。
さっきからなんなんだこの人トチ狂ってるのか?
自分の命を大切にしてやれよ。
「そっちの的でいいじゃないっすか!」
「敵は止まっていても微動する」
そうだけど!
「早くしろ」
あーもう!
死んでも知らねーからな。
俺スナイパーなんて使ったことねーから無理ゲーだからな。
構えてスコープを覗き、林檎に標準を合わせる。
引き金を引いて嫌な音を耳に届けた。
「グッド」
少しだけ、口を吊り上げて。
俺に近付いてくる小野寺さん。
「当たった」
「人には得手不得手があるからな」
何でだ。
「何で、スナイパー」
この銃を俺に渡したんだ、この人。
「お前は落ち着いて撃たないからブレる。陰から隠れて落ち着いて撃った方が良いかと」
いや、と付け足して横目で俺を見る。
「……対人も中距離も駄目だったらスナイパーしかないだろ」
一言余計だな!
対人はあんたが異常なんだよ。
「ちゃんと理由があってバディが決まってんなら、近距離の俺に合うのはサポート遠距離の人間だしな」
党首何でわかったんだよ。
すげぇな、俺自分でもびっくりしてんのに。
緊張が今更襲ってきて、腕が震える。
こいつは、無感情な大人なんかじゃない。
まるで死にたがりの馬鹿野郎だ。
気のせいか嬉しそうな表情は、
俺を認めてくれたのかもしれないね、なんて。
無感情な大馬鹿野郎
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