気がつけば自分は、地に倒れていた。
足が痛い。足を撃たれたようだ。
……あれ、抗争は終わったよな。
敵も、いないし。
立とうとして手をつくと何者かに背を踏まれてまた倒れる。
頭を踏まれて、衝撃で通信機が吹っ飛び春樹の声はもう俺には聞こえない。
「終わったなぁ」
楽しそうに話すのは、あのとき喧嘩を売ってきたそいつで。
少数精鋭の唯一の生き残りのもう1人だ。
何すんだこいつ。
手に持っていたライフルは蹴り飛ばされて、もう反対の足も撃たれる。
腱あたりを撃たれたのか、足を動かせない。
終わったから、だなんて油断した。
俺に自害しろとか言ったクソ野郎が残っているのを忘れてた。
「……クソが、仕事は終わりだろ」
「生憎、俺の仕事はお前を殺す所までなんでねぇ」
何が仕事だ。
わざとらしく、四肢から潰していく。
真っ先に殺しはしないのは、楽しんでいるのかもしれない。
鼻で笑った俺を見て、そいつは笑い返してきた。
「ちゃあんと仕事だぜぇ?党首の、命令」
あぁ、そう。
党首の命令ね。
俺は最初から殺される予定だったの。
ふぅん、そう。
まぁ、そんな気はしていたけど。
だって、使い終わった道具は処分するのが定石だろ。
「なぶり殺しが好きなんだろぉ?」
楽しそうだな。
俺は何だか冷静だな。死ぬのにな。
何でだろう、アホらしいからかな。こいつが。
通信機の向こうの性格の悪くない方のアホはまだ何か喋ってんのかな、聞こえねぇな。
通信機どこ行ったんだ。
あぁ、また怒られるな。
無理すんなって。
あの少女は大丈夫かな。
ちゃんと、謝らなきゃ。あの時のこと。
償わなきゃ。親を殺したこと。
どう思っているんだろう。
到底許してくれそうにはないな。
思考回路と身体が切り離されたような感覚だ。
考えずとも馬鹿みたいに回る思考回路とは正反対で身体はもう動かそうにも動かせない。
撃たれるたびに、痙攣のように体がびくりと揺れて。
言葉はでないくせに、自分から呻き声が発せられる。
「なぁ、お前って奴隷だったんだって?」
そいつの不快な声も、耳に入っても意味を理解できない。
「人に逆らえなくて、されるがままで、周りの仲間もどんどん殺されてたの?」
楽しそうだなぁ、なんて。
何か俺を苦しめようとしてるみたいだけど。
もう充分苦しいよ。
息が上手くできないの。
お前に撃たれたところが痛いわけ。
血が流れすぎて頭が働いてないし。
「最期まで、可哀想だなぁ」
どこを撃たれたのかすらわからない。
理解できない。
わかんないけど。
もうたぶんぐちゃぐちゃだ。
俺の体、ろくなことになってない。
いっそのこと意識を飛ばしてくれれば楽なのに。
苦しいな、あれかな、今までの罰かな。
「じゃあな」
たぶん、最後の弾を撃たれたんだと思う。
馬鹿だから殺したつもりでいたのだろうか。
頭か心臓。どちらかに撃ったのだろうけど少しそれたのか。
まだ意識はあるのに。
といっても、もう言葉も出ないし体も動かないしほっとけばこのまま死ぬだろうけど。
遠くから、発砲した音が聞こえる。
近くにいたそいつは倒れた。
うっすらと見えたのは、党首の足元だ。
ああ、可哀想だぁ馬鹿だなぁ。
結局お前も利用されて殺されてんの。
所詮道具だったんだから。
少数を精鋭として突っ込んだのは、力があるやつ技術があるやつを消すためだったのか。
何でだろ、次また戦争起きたときに敵になっちまうのが怖いから?
よくわかんねぇけど、消したかったのか。
近くにいたそいつは動かないし喋らないし、理不尽なことに対して文句も言わない。
死んでるのか。
俺よりも先に、死んだのか。
可哀想。
近付いてきた党首は俺とそいつのドッグタグを引っ張った。
1枚だけ取られたドッグタグ。
党首の足音が離れていく。
俺の視界にはもういない。
敵とこのアホなやつの死体の中で俺は死ぬのか。
春樹にまた文句を言われる。
エリカに謝らなきゃなぁ。
抗争終わったなら食堂の唐揚げ食べれなくなんのか、あそこの美味いのに。
平和になるんだったら2人とどっか美味いもん食いに行きたいなぁ。
仕事、探さなきゃいけないのか。
出てくるのは、「生きている前提」のことばかりで。
人間として、道具じゃなくて人間としての生き方で。
「……ふ、は……」
言葉はでないのに、口を吊り上げて笑う。
いつから俺はこんなにぐちゃぐちゃになった。
俺は道具で良かったじゃないか。
「ひ、ひひ……あ、は……」
いつからだいつからだいつからだ。
エリカと出会ってから?
そもそも春樹と出会ってから?
エリカに銃をつきつけてから?
笑顔を見てから?
買われてから?
あいつがあの人を殺してから?
依存してから?
わかんない。
わけわかんない。
わけわかんねぇよ。
「……う……うぁ……」
──死にたくない。
死にたくない死にたくない死にたくない。
「は……ひ、ぐ……」
生きたい。
やっぱりさ、普通の生き方なんて知らないんだ。
幼い頃から、まともな生き方なんてしてないから。
残酷なことと、依存することしかできてないから。
でも、それでも、
ねぇ、生きたい。
笑いたい。
泣きたい。
怒りたい。
愛したい。
感情が欲しい。
人間でありたい。
歪み、引きつる口から流れる血は止まらない。
俺は人間なの?人間であれるの?
いいや、道具だよ。
あれでも道具ってこんなに涙を流すっけ?
道具の最期は独りぼっちなの、誰もそばにいてくれないの。
少女からもらったピンがついてるかどうかすら確かめることができないなんて、何て寂しい最期なのだろう。
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