何冊かの本を手に取って読む。
刹那さんの部屋にはたくさんの本があった、でも、専門書が多くてチンプンカンプンだ。
心理学系の本が多い。
学者なのかなと思って聞いてみたけどただ単に興味があるだけだという。
……難しい。
時間もたくさん過ぎて。
夕ご飯の時間も越していた。
「ふあーあ、やべぇ、飯食い損ねた……」
眠たそうにやってきたのは春樹さん。
いままで寝ていたようだ。
時計を見ると食堂が閉まっている時間だった。
「……売店で何か買うか」
刹那さんがだるそうに腰を持ち上げる。
そのまま手を引かれ、部屋を出た。
売店はコンビニのように、色んな物が並んでいた。
パンを買って、また部屋に戻る。
「うーい!酒だ酒だー!タダの酒ほど旨いもんはない!」
春樹さんが変なテンションで袋からビールを取り出した。
春樹さんが「財布忘れた」と言って全て刹那さんに買わせたのだ。
つまり、奢り。
まだ飲んでないのに酔っているように見えますが。
3人で床に座って、丸くなって食事をする。
テーブルの椅子は1つしかなくて、みんなで使うことはできなかったからこうなった。
「うるせージジィだな」
刹那さんが嫌そうな顔をして何個か買ったパンから1つ選ぶ。
「お前の方が年上だろ!?」
……そういえば。
2人って何歳なんだろう?
刹那さんの方が年上なんだ。
落ち着き的な意味ではその通りって感じがするけれど、どちらもそんなに違いはなさそう。
聞いてもいいよね?
女の人にだったら失礼な話かもしれないけど、男の人だし。
ビールを口にしている春樹さんを見る。
「お2人って、何歳なんですか?」
「俺は21だよー」
ニカリと笑う。
全然若いじゃないか。
充分未来がある年齢だ。
「お嬢ちゃんはー……あー、12、13?」
「15です!」
そんなに小さく見えるのか。
小学生卒業したてレベルか。
……もうすぐ16なのに。
学校に通っていれば高校1年生だ。
刹那さんが10歳と言ったのもあながち冗談ではないのかもしれない。
「ほー、まぁ、まぁ。まだ成長過程みたいだしねぇ、イロイロと」
自分の胸あたりを指差してケラケラ笑う。
缶を握りつぶしてやりたい。
私の力では不可能だけど。
代わりと言っていいのかわからないけど、春樹さんが缶を口に付けた瞬間刹那さんが缶を下から蹴ってくれた。
「あぼっ!」と春樹さんは変な声を上げた。
口に大ダメージ、あれは痛い。
自分の唇を痛そうに触りながら刹那さんを見る春樹さん。
「酔いは覚めたか」
「……バッチリ。まだ酔ってなかったけど」
話がそれている気がする。
「刹那は、えーっと……何歳だっけ?」
春樹さんが21なら、22とかかな……
そんなに変わらなさそうだし。
「26」
結構離れてた。
成人したらそのくらいの差あまり気にならないのかもしれないけど。
……私と10歳以上離れてる。
「あれ、そんな離れてたっけか」
「そうだ、5歳も離れた相手にお前は随分でかい態度だな」
「いーじゃんこんな時代、歳なんざ意味を為しませんぜおじいちゃんー!」
「シバくぞ」
自分は年下にジジィって言うのに自分がおじいちゃんって言われたら怒ってる……
たくさん買ったお酒が春樹さんによって消費されていく。
刹那さんも飲んでいるけれど、あまり様子は変わらない。
「春樹」
名前を呼ばれたその人は床に転がっていびきをかいていた。
刹那さんは呆れたように彼を蹴る。
「クソだわ」
刹那さんって本当に春樹さんには暴言吐くよね。
布団から1枚掛け布団を引っ張ってきて、投げるように春樹さんにかけた。
なんだかんだ優しい。
時計は12時を過ぎた時間を指している。
そろそろ部屋に戻ろう。
「私、部屋に戻ります。おやすみなさい」
刹那さんと視線が合う。
瞬間、
刹那さんに手を引かれた。
「刹那、さん?」
そのまま、その人に
抱きしめられた。
え?え?
……何?
頭が、混乱する。
何で、私は。
抱きしめられているの?
「……ごめんな」
頭の上から謝罪が聞こえる。
何に対して、なのか。
わからないけれど。
そのまま。
抱きしめられたまま。
刹那さんは、ベッドに沈んだ。
……部屋に帰れない。
「お前は抱き枕に丁度いいな、小さくて」
失礼だ。
頭を撫でられる。
聞こえてくる心臓の音が、私を安心させた。
「あの……」
「いいから。ここで寝てろ」
いいから、って何。
男とか女とか、そう言うのは歳が離れすぎてて意識しないのかもしれないけどさ。
あなたはそうかもしれないけど、私は。
私は、年頃の女の子なわけで。
……恥ずかしい。
「刹那さん、酔って、ます?」
「ん、酔ってる」
眠たげな声。
柔らかいその声に、私も眠くなってきた。
「……ちゃんと寝ろ。寝るまで、そばにいるから」
先に寝ちゃいそうなのに。
思わず笑みが零れる。
うとうとと意識が遠ざかっていく気がした。
──明日は早く起きなきゃ。
やりたいことが、あるんだから。
今日の夢は、悪夢なんかじゃなかった。
誰かと笑っている、幸せな夢。
存在価値
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