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つぎはぎロマンティック(ハオ/オリオン後/2019)


「ハオ君お誕生日オメデト〜!!」
「『君』とか止めてよ、何か変!」



パパパパン!と足元で爆竹が走り回る。
チャウ・シンが貸し切った店屋の前では中国代表でハオと一緒になったメンバーがワイワイと賑やかだ。


「いーじゃん別に、形だけだよ。心の中では皆呼び捨ててるって」
「お前ね…」
「まぁまぁ、子文さァん。お祝い事の形式美というものもあるんですかラ」
「親分までそういう事言うの?」



さすがに店の中でやると火事になるので外に出てきた訳だけど、11月も後数時間もすれば終わり。
凍える冷たさの中国でいつまでも外で祝いの爆竹を見つめている訳にはいかない。
ひと通り爆竹を鳴らし終わり、店内から食事の準備が出来たとかしこまった声がかかると主賓そっちのけで仲間達は温かな屋外へ一目散。
もこもことした服装の妹・ユーチェンが遠慮がちに言った。



「…兄様、私達も入りましょ?」
「ユウ…。あー、うん。そうだな」
「名前、引き取られたお家から抜け出すのが大変みたい。シンが言ってた」
「…何も、名前が気になるとは言ってないでしょ」
「言ってないけど顔には書いているわ」
「何か言った?」
「いーえ、何も」
「そ。じゃあ、入るよユウ。豚足のスープが待ってるし」
「…ええ」







ーーー深夜、名称・趙 金雲の名で借りた宿屋。
久方ぶりの酒が入って気持ち良さそうに寝ている保護者代わりの大人。
彼をそっと起こさないようハオは外に出る。
文句がある訳ではないがアルコールの匂いが部屋に充満してるし、発せられるイビキでもう一回寝付くのは難しそうだった。



「…ふぅ、めちゃくちゃ食べ貯めしちゃったな。まだ腹が重いや」



離れて生きる妹にも会えて、路地裏の鼠をしていた頃の同胞にもサッカーを通じて得た仲間にも祝ってもらえた。
普段食べられないようなご馳走を体の隅から隅まで詰め込んだ。



「(楽しかったし、文句言ったらバチが当たるくらいの良い誕生日だったんだけど)」



肌を刺すくらいの温度の夜風が高揚感を攫う。
冷やされてクリアになっていく頭は物足りない要素を嫌でも浮かび上がらせる。

今日、姿を見せなかった名前の事だ。

孤児院時代から知っている彼女とは「路地裏少年隊」でも一緒だった。
何年か経った後、アジア予選で再びマネージャーとして一緒に過ごして以来になるが、ユーチェンの言っていた事もあり、元気にしているのか気にかかる。



「ーーー…抜け出せないって何さ」
「…古風な考え方の家なの。暗くなったら危ないから外出禁止、ってね」
「っ!?」
「久しぶり〜。ハオ、元気だった?もう過ぎちゃったけどお誕生日おめでとうございました〜」
「何だよそれ」
「皆にも会いたかったんだけど夜ご飯はなかなかお許しが出なくて…今度から誕生日はランチにしよ?」



噂をすれば当人の名前が白い息をまとい、前方から小走りで近付いてくる。
冗談めかした挨拶が彼女らしくてホッとした。どうやら体は元気らしかった。



「って言うか、何回引き取られても孤児院に戻って来た名前が大人しく引き取られてるなんてなー」
「小さい時は親が迎えに来てくれるんじゃないかってミラクルな展開信じてたからね…でも現実的じゃないなって理解したから。ロマンじゃ腹は膨れない」
「はは、分かる 言えてる!」



親がいない。捨てられた。孤児院で出会うという事は境遇は似通っていた。
だが悲観しているのではなく、笑い飛ばせる所が路地裏の鼠達の強みなのだと自負している。



「それに、もう孤児院にはハオも皆も居ないし。面白くないよ」
「…名前」
「だから新しい住処を探しに、私は旅に出たのでした。見つけた先はお作法厳しくて檻みたいだけど」
「抜け出してきてるクセに」
「そこはほら、鼠だからね!」



カラッと笑い飛ばす彼女の笑みに屈託はない。
昔から変わらない、色気はないけれど引き付けられる笑顔。
こんなに寒い夜なのに、何だか彼女の周りは真昼の様だった。



「ねぇハオ、ハオはまた監督と旅するの?」
「あぁ。俺はまだ親分から教えてもらう事が山ほどあるから」
「そっか。じゃあまた来年の『足球雑技団』に招集されるまで会えないね」
「…何だよ、寂しいの」
「寂しいよ」
「っ、名前は嘘ばっかつくもんな!」
「嘘じゃないよ、ひどいなぁ〜!でも年に一回しか逢えないって、何だか織姫と彦星みたいでロマンティックだね」
「ほらな!やっぱり寂しくないんじゃないか!」
「言葉の綾ってやつじゃない」



ついさっき、ロマンじゃ腹は膨れないとか言ってたのはどこの誰だったか。
ちょっとドキッとして損したな、と思ったら急に保っていた熱が冷めた気がして襟元をそっと閉める。
それを見て思い出したように名前が持っていた鞄をごそごそと探る。
見つけた様子の後、出てきたのは厚手のマフラー。
綺麗に包装されていたのを目の前でバリバリと破り始めた。



「名前…?」
「ハオにあげようと思ってて話してたら忘れてた!これ、誕生日プレゼント!」
「あ、りがとう…。でも良いのか?こんな上等な…」
「良いんだよ、これからの時期どこ行っても寒いんだから役に立つでしょう?」
「そりゃそうだけど…」
「良いんだってば。ハオは特別だからね」
「(どういう意味だよ…)」



ぐるっとハオの首にえんじ色のマフラーが巻かれる。
夜風の入り込む隙間がなくなって首元が温かい。
左右のバランスを見て整っているのを確認すると名前は満足げだ。



「ハオ、私思ったんだけどさ」
「何を?」
「ロマンじゃ腹は膨れないけど、心は満たされるよ。フットボールフロンティアでハオにまた会えた時…凄くそう思った」



だから来年もまた世界を目指す舞台で会おう。
照れ臭そうに言った彼女が湛えていたのは大人びた微笑みだった。

思わず息を飲む。
子供っぽい所ばかりが目に付くと思っていたのに、こんな一面を見せつけられるなんて。



「…なぁ、」
「何?」
「ロマンは分かったけどさ…俺は年一しか会えないとか物足りないんだけど」
「なぁに、寂しいの?」
「…寂しいよ!決まってんだろ!」
「へへ、本当?嬉しい!じゃあ、また会いに来てよ。待ってるからね」
「本当かな…」
「ホントだよ。監督に住所伝えておくし」
「…じゃあ、約束したからな」



きっと金雲の事だ、明日にはまた別の地へ発つ事になる。
次に生まれ故郷に訪れるのはいつだろう…全く想像がつかない。
それでもまた大事な人に会えると思うと先の見えない旅も苦にはならない気がする。



「もう1ヶ月もしたら新しい年になるんだよね…」
「まぁ盛大に盛り上がるのは旧正月の時期だけどね」
「私はご飯も温かい寝る場所もあるってだけで取り敢えず満足」
「控えめだな、そんなんじゃ中華の星になった時大変じゃん」
「近い内になれるかな」
「当たり前」



成長した自分の別の一面を見た時、彼女にロマンティックだと感じてもらえたらちょっと嬉しい。…勿論、今日翻弄された分のお返しだ。

そんな僅かな楽しみを胸に、ハオは柔らかな色のマフラーに手を添えたのだった…−−−。






*****
(2019/11/30)

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