(銀妙)

初めて握られた左手の感触を、私はまだ覚えている。
それもまだ、ずっと覚えている。



その日は雨が降っていた。一つの傘に、私とあの人。
黙ったまんま並んで歩く、寒空の下だった。
不意に左手に宿った熱。ハッとして、目線だけをちらと隣に向けた。
隣の男は何も前を見たままで、此方の視線には気づかないでいた。
私は少し俯き、目線を下に移す。
何だか心地良くて、この時間が永遠に続けばいいと思えた。
手を繋いだだけなのに、何だかとても、幸せだった。



結局、私たちは手を離すまで一言も口を聞かずにいた。
私の家である恒堂館に着いた所で、それじゃあと軽く挨拶を交わし別れた。
そのまま自室に向かい、灯りも点けずに、自分の左手をまじまじと見つめた。それから繰り返しグーとパーを作る。
男の人に、握りしめてもらえたのは初めてだった。


今、私の左手と顔と心臓は、きっと同じ温度を共有している。
もしかしたら彼も気づいているのかもしれない。
そう思うとまた一℃、熱があがる気がした。

万事屋への帰り道、彼も私みたいに、触れ合った右手を気にしていると嬉しい。
どんな気持ちだったのだろう。
恥ずかしい?緊張した?それとも余裕?
いずれにしても、私を思い浮かべてくれればいいのに。
だって私は今、あなたでいっぱいなんだもの。



あぁ、今すぐあなたに会いに行きたい。会って今度は、私があなたの右手を掴んで、握りしめるの。







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