後ろを僕に

学園長より六年生全員である城から密書を奪うという忍務が与えられた。

攻め方や配置など全てを自分達で考えなければならない。

全員で行う忍務は何度目かであったが、今までは誰かしら教員が付いて居た。

しかし今回は違う。

皆意識して居るのだろう、作戦を立てようと集まった部屋は静まり返って居た。

口火を切ったのは長距離戦を得意とする仙蔵だった。

「まず私が行こう」

城内の地図に視線を落としながら呟く。

「私がここから宝禄火矢を投げる。相手が怯んだ所で…長次、行くか?」

「俺も行く!いけいけどんどんだな、長次!」

小平太の笑顔に部屋の雰囲気が和らいだ。

「…密書の隠してある部屋は忍組で見張られて居るな」

「じゃあ長次と私が相手をするのか?その間に密書は移されてしまうぞ」

長次が呟くと小平太が両手に持った苦無を摺り合わせた。

「僕が霞扇を使うよ。先に使用人として城に忍び込んで敵を眠らせておく」

伊作が笑顔で提案すると皆が固まった。

「…いや伊作、お前一人ではー」

「俺も行く。伊作の援護をする」

留三郎が伊作と目を合わせ頷いた。

結局、事前に伊作と留三郎が城へ侵入し城兵と忍組を霞扇を使って眠らせておく、仙蔵の宝禄火矢を皮切りに長次と小平太、文次郎の三人が密書を奪うと言う作戦となった。

伊作と留三郎は早速明日城へ使用人として向かう。

留三郎が伊作と共に城に忍び込むと言った時、皆が不思議と受け入れた。

伊作の隣に居るのは留三郎なのだとー。

「お前一人で大丈夫か。追っ手が来たら…」

「誰に言っている。お前に心配されてはな」

皆がそれぞれ部屋に戻った後、会議中には一言も口を出さなかった文次郎が冴えない表情で呟いた。

それからはどちらも口を噤み会話が続く事は無かった。

言いたい事は分かって居る。
けれど、甘える訳には行かないのだ。
いつまでも共に有る訳では無いのだからー。

仙蔵は静かに目を閉じた。





二人が城に入って十日が過ぎた。
今夜が実行の日。
約束の時間は亥の正刻。

忍務に適しない月夜の晩であったが、皆良い緊張感を持って向かって居た。
必ず遂行するのだ、と。

城の前に到着し仙蔵が目で合図をする。

そして宝禄火矢を次々に投げた。

暗闇に眩しい光が次々に上がるのと同時に城兵の叫び声が聞こえる。

投げ込む手が止まるや否や、仙蔵の背後から三人が飛び出した。

上手く行った、と思った瞬間ー。

背後から風を切る音がした。
咄嗟に体を丸め両腕を前で組んで盾にする。

「仙蔵!!」

「…!」

先に行った筈の声が聞こえ、次いで激しい金属音。

目を開けると視界一杯に広がる背中ー。

「…文次郎!大丈夫か!?」

「弾いた…大丈夫だ」

「馬鹿者、何故戻って来た!…怪我したら…どうする…っ」

腕に付いた傷から朱い物が見えて動揺する。
自分がそうされた時以上に。

「大した事無い。…もしお前が傷付いたら今のお前みたいな顔してんだろうな」

「な、に…」

「自分が傷付いた方がマシだって顔だよ」

「!」

見透かされて居る気がして指が震えた。

「…いつまでも守ってやれないかも知れねえけど、今だけは…お前の後ろ、俺に任せてくれねえか?」

震える手を握られ見詰められ、張り詰めていた感情がふっと解けた。

惚れて居るからこそ弱い所など見せたく無かったのに、こんな事を言われてはどう抗えると言うのか。

胸が忙しなく鳴るのを止められ無いのは、
幾ら冷静だと言われる自分でも、こやつが絡めば話は別物なのだ。

「…良かろう。行くぞ!」

背中を合わせ懐から取り出した苦無を握り締めた。





「あれ?長次、文次郎は?」

走りながら後ろを振り返った小平太が長次に尋ねる。

「…後から仙蔵と追い付くだろう」

「ふうん…敵が居たの最初だけだったなぁ。城に入ってから殆ど居ないじゃ無いか」

「伊作が上手くやってるんだろう。それと…」

「それと?」

「お前は前しか見て居ないだろうが、後ろからかなりの人数に攻撃された」

「へっ?」

そう言われ長次の更に後ろを見やるとかなりの人数の城兵が倒れて居るのが見えた。

「さっすが長次!やっぱり長次に後ろを任せると思う存分いけいけどんどん出来るなあ〜!サンキュー!」

「…どういたしまして」





「…伊作っ、これは本当に眠り薬なんだな!?」

「そうだよっ…そうだと思うよ…!」

「なら、何でっ、みんな眠らないんだよ!」

伊作が霞扇で眠り薬を施した筈の忍組は全く眠らず、侵入者の二人はあっと言う間に取り囲まれてしまった。

敵は四人、武道派で無い伊作と二人では分が悪い。

しかも力量が分かるのであろう、伊作ばかりを狙って来る。

留三郎は鉄双節棍で自分への攻撃を交わし、更に伊作を攻撃する敵に手裏剣を投げるのも流石に限界だった。

「わっ…!留、僕を置いて…密書を!」

伊作ももう限界のようで振り向き叫んだ。

「…馬鹿野郎!今お前の後ろから居なくなったら、俺が一生後悔するだろっ!つーか、それならここで一緒に死ぬ方がマシだっ!」

「…嬉しいんだけど、抱き合ってる場合じゃ無いね…あっ!」

伊作がバランスを崩し、留三郎の背中に寄り掛かる。

二人共に限界かと思われた瞬間、敵が次々に膝から崩れ落ちた。

長次達が辿り着いたと思ったが姿は見えない。

「…眠った、みたいだね」

「…効くのが遅えよ」

ほっとして背中を合わせたまま二人共しゃがみ込む。

「御免ね…僕のせいで危うく…」

「二度と言うなよ」

「何を?」

「置いて行けとか。…お前の後ろは俺しか居ないだろ。こんな不運に耐えられるのは」

そう言って頭を後ろに垂れて伊作の頭に乗せた。

「…そうだね。僕も留の背中が安心する」

ふふふと笑って走って来る長次と小平太に手を振った。





後から到着した二人と合流し密書を手に城門を出ると、文次郎の腕に自分の口当てを巻き付けて居る仙蔵が見えた。

傷を負っても何故だか嬉しそうな文次郎と、対照的に焦った顔の仙蔵が可笑しく四人は笑った。



例えずっと傍に居られなくても、今は君の後ろを僕に任せてー。


(完)


明里様、お待たせ致しました(≧Д≦)
CP 前提でお互いに背中を預けあっている「忍者してる6年」←リク、やはり駄文になってしまいました(◎-◎;)申し訳ありません。



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mokuji



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