その温もりをもう一度確かめよう















もしも俺の指がもう少し細くてか弱かったら―何度そんな馬鹿げた事を考えただろうか。





「きりちゃん!」

「おう、乱太郎。委員会終わったのか?」

「ううん、まだ。今日遊ばない?ってバイトか」

「当たり前だろ?こんな稼ぎ時にじっとしてらんねーよ」

「やっぱりね。…去年みたいにミニスカサンタとか言わないよね?」

眼鏡の奥から突き刺さる視線に思わず目を逸らす。
流石は親友、何でも御見通しと言う訳だ。
今日はクリスマスイブ、リア充にとっては甘い夜になるだろう今夜は俺にとって絶好の稼ぎ時。
日頃バイトに励んでるんだから今日くらいは乱太郎達の誘いに乗って良いと思うんだけど、去年知り合いの店に提案したミニスカサンタ(女装してチラシ配り)のバイトは例年よりもかなり儲けさせてもらった。
しかも今年は店の方から依頼されたもんだから、断る理由も無く今夜と明日の2日間引き受けている。
正直俺の女装姿なんて何が面白いのか分からないけど、兎に角高時給ならば気にしないのだ。
但し乱太郎には未だしも、“あの人”にバレるのは拙い。
そう思って乱太郎を見ればふうっと大きな溜め息を吐いて首を振った。

「言わないけどね、先生には」

「さんきゅ!乱太郎♪」

「でも気をつけるんだよ。この時期酔っ払いも居るし、」

「大丈夫だって!この俺をどうにかしようなんて物好きが居る訳無いし。じゃあ行って来まーす!」

見つからない内にと急いで学校を後にした。








俺には好きな人が居る。
残念ながらそれは可愛らしい女の子じゃない。
じゃあブスなのかと言うとそんな話では無くて、そもそも女の子じゃないんだ。
“あの人”―それは先生、そう俺の担任その人なのだ。
15歳年上の勿論男で、恐らくモテるであろうイケメン。
正直好きになったのなんて入学式で一目見たあの時からに違いないが、この不毛な恋に何もアクションを起こせる筈も無く早2年が過ぎようとしている。
いや、誰が成就させようなんて期待するよ?
先生にとったら俺は大勢いる生徒の1人、ちょっとばかし周りより構われているのは自覚しているけど、それとこれとは話が別だ。
大体先生こそリア充だろうし、今日なんて恋人と何処かへ出掛けているに違いない―

「きり丸?」

「…へっ!?」

ぼんやりしながらチラシを差し出したら、正に思い浮かべていた顔が現れて間抜けな声を出してしまった。
…いやいやいや、今会うのは拙いでしょ!!

「せ、先生…こんなとこで何してるんすか?」

「…それはこっちの台詞だろう。そんな格好で何してるんだ?」

「え、いや、その…サンタクロース頼まれちゃって!あははは!」

「…」

無言の圧力とはこの事か、いっそ怒鳴りつけてくれた方が楽だと言う位に睨み付けられて自然と肩が縮こまった。
普段の服装と違う、黒いコートに身を包んだ先生は格好良過ぎて思わず顔が緩んでしまう。
滅多に見られないその姿を暫く見ていたいのだけど、お説教が始まる前に考え付くだけの言い訳を並べておこうと口を開いた。
そうだよ、だって俺はー

「俺は女じゃないし、こんなカッコしてても危なくないでしょ?だって…めちゃめちゃ時給イイんすよ!あっちから頼まれたし断る理由無いって言うか…男だから、良いでしょ?」

もしも差し出す俺の指が細くて弱そうだったら、先生も危ないだろうって止めるかも知れない。
もしも好きだって言ったら、例えば先生にそんな気無くても、少しくらいは真剣に考えてくれたかも知れない。
だけど俺は男だからそんな事を願う自体馬鹿だし、男だから良いと口にする度に勝手に悲しくなってるんだけど。

「先生は何してるんすか?彼女と待ち合わせとか?」

仏頂面のままの先生に茶化すように精一杯の笑顔で尋ねたら、返事をしないで自分のコートをサンタ姿の自分にばさりと被せた。
寒いとは感じなかったのに、包まれた温かさに体が冷えていた事に気付く。

「え…先生、俺寒くないよ?」

「着てなさい」

「いや、だって…先生寒いでしょ?それに隠したらコスプレの意味無いんすもん」

「…」

「バイトの条件はコレだし」

「…」

「先生ってば」

「…他の奴に見せるのが癪なんだよ」

「え?」

消え入るような先生の言葉と赤く染まった顔に、今度こそ勝手に頬が上がった。
別に好きだと言われた訳でもないのに、何でこんなに舞い上がってるんだよ、俺は。
だけど惚れてる相手に、しかも今日だけはなんだか特別扱いされて、嬉しくない奴なんて居る訳がないだろ。

「お前、去年もこのバイトしてただろう?まさかと思って来てみたら案の定ー」

去年も、って…心配になって来てみた、って…?
その顔でそんな事言われたら尚更、期待すんなって言う方が可笑しくない?

「山田先生に見付かったら大目玉だぞ?とっとと終わらせてー」

「先生…俺の事好き、とか?」

届いたか分からない程の絞り出した声はちゃんと先生に伝わったみたいで、途端真剣な顔付きに変わった。

「そうだよ」

「…女装の、俺が好きなの?」

「お前なら女でも男でもどっちでも良い」

「…はは、物好きがここに居た」

乱太郎に謝らなくちゃ。
男の俺をどうにかしようとする奴がこんなに身近に居たって。
あと、このバイトは今日が最後だって事も。

「あーあ!先生のせいで稼ぎそびれた!」

照れ隠しにそう言えば、吹き出した先生が悴んだ俺の手を握った。

「素直じゃないな。自分も好きでした、って言えば良いのに」

「…気付いてたんすか」

「あんなに熱い視線で見詰められたらなぁ」

「熱い…っ!?俺、そんなっー」

「氷みたいな手じゃないか。帰ったら温めないと」

先生が俺の手を口元に持って行ってはぁっと息を吹き掛ける。
恥ずかしくて格好良くて、それこそ体が凍ったみたいに固まってしまった。
それを見て得意気な顔を寄越す先生に何とか一糸報いたいと精一杯強がりを言ったら、結局返り討ち。

「じゃ、じゃあ先生が温めてよね!」

「幾らでも♪」

「!!!!!」

その温もりをもう一度確かめよう、最高のXmasプレゼントは優しくて意地悪で格好良くて温かいのだ。









(完結)






はい、完全に間に合わなかったXmasネタです。
もう年明けたじゃん、はい済みません。
未成年男子高生にミニスカサンタさせる店は摘発されちゃうけどね、知人のおじさんに頼まれたんだと思うよ。
って訳で深く突っ込まないで下さいませ☆
御粗末!
今年もよろしくお願いしますっ!


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