世界に二人だけ
(☆さくら様へB.Dpresent☆)





学園長先生の命を受けて二人で忍務に出向く事になった。

忍務はそう危険な物では無さそうであったし、相方は気の許せる同室で恋人であるし乗り気で有ったのだ。

そう、学園長の突然の思い付きがあるまではー。

「…何で、こんな事になってるんだ?」

そろそろ出発の時間であるのに相方の姿が見えず、長屋を探し回ると作法委員長を務める同窓の部屋で見付けた。

何故かばっちりと女装した姿で鏡の前に座り、目を閉じたまま化粧を施されている。

「あ、留三郎。御免、探しただろう?実は学園長先生の突然の思い付きで、忍務の内容が変わったんだ」

「変わったって…姫様の移動の護衛だっただろ?…もしかして…」

「うん…姫様の囮だよ。留はその護衛の振り」

初めはある姫の移動の道すがら護衛をするだけであったが、どうやら囮として別の道を移動する事になったらしい。

いつも女装の苦手な伊作の代わりに自分が女装する事が多い。

元々顔は良いのだからもう少し精進してくれれば良いのだがー。

「よし、出来たぞ。流石は私、完璧であろう」

そう言って仙蔵が離れ伊作の顔が見えた。

「…いさ」

「へへ、どう?女の子に見える、かな?」

少し頬を赤らめて、自分に全身が見えるようにゆっくりと立ち上がった。

派手な赤い花柄の両袖を床に水平に上げて着物を見せ、くるりと回ってから自分を見て首を傾げる。

「…めちゃくちゃ可愛い。その辺の女なんかより…」

「…本当?」

伊作に近寄り思わず抱き締めようとした瞬間ー。

「…おい、離れろこの猿めが。ここは私の部屋だ。そんな事は忍務が終わってからにするんだな」

低い声で窘められ伊作が慌てて後ろへ下がる。

「ご、御免ね、仙蔵。有り難う、こんな綺麗にしてくれて…僕じゃ変になっちゃうから」

「だが少し可愛くし過ぎたか。これでは姫を狙う敵だけで無く、輩も寄って来そうだな。…おい、留三郎。何があっても伊作を守れよ」

「当たり前だろうが。伊作は俺が全身全霊で守る!」

伊作の肩を抱く仙蔵を睨みながら答えると伊作は赤い顔で俯き、仙蔵は大袈裟な、と鼻で笑った。





一度城へ出向き、出発の時刻になってから姫の一行とは別の道を辿る。

目的地はそれ程遠く無い為、忍務も問題無く終えられると山道に入った矢先、仙蔵の言った通りの展開が訪れた。

「見ろよ!この女、かなりの上玉だぞ。おい、お前。命が惜しかったら荷物とこの女を置いて行け」

溜め息を付き、相手を見やる。

山賊の数は五人ー。
しかし大した手練れでは無さそうだ。

姫役の伊作を道の脇にやり、腰に差した刀を抜いて相手に迫れば自分の力量が伝わったのだろうか、案の定皆後退りして行く。

このまま立ち去るだろうと思われた時ー。

「やっ…!」

後ろから聞こえた声に振り向く。

後から追って来たのか、山賊の一人が伊作を羽交い締めにして居る。

伊作が反撃しようか、しかし姫の追っ手がもし見ていたら、と迷って居る様子であった。

「こいつがどうなっても良いのか!?」

陳腐な台詞を吐く男を睨み付ける。

いざとなれば伊作は何とかするだろうから、取り敢えずは前の五人を片付けるかと思った瞬間、伊作の呻くような声が耳に届いた。

「お前…いい匂いがするな。椿油か?」

男が伊作の首筋に顔を埋めるのを見た瞬間に頭に体中の血液が集中し、忍務だとか誰かが窺っているかも知れないだとか思考が完全に飛んだ。

「…離れろ」

「あ?」

「と、留…っ!」

伊作が駄目だと言わんばかりに首を振るがもう抑えるのは無理らしい。

「俺の伊作から離れろって言ってんだよっ!」

そう叫んでから怒りに任せて暴れまくったみたいだがあまり記憶に無く、必死に叫ぶ伊作に腕を掴まれて意識を取り戻した。

もう目線の高さには誰も見えず、見下ろすとぴくりとも動かない山賊達が倒れて居る。

あ、と呟いて恐る恐る伊作を見やると案の定頬を膨らませて自分を睨んでいた。

「あの…その、頭に血が昇って…」

「名前なんて呼んで…囮だってバレたらどうするのさ。しかもこんなにめちゃくちゃに暴れて…もう先行くよ!」

ぷいっと顔を背けさっさと前を急ごうとする。

脇道に入った伊作の両腕を掴んで引き寄せ木に貼り付けた。

背中を軽く打ち付け伊作が顔をしかめる。

「わっ…と、留!いい加減にー」

自分を見上げた伊作の口唇に自分のそれを押し付けた。

瞬間びくりと肩を震わせ、しかしすぐに抵抗しようと掴まれたままの両手首を放すようじたばたと動き始める。

暫くすると疲れたのか観念したのか、両手の力が抜け木にもたれ掛かった。

「はぁ…もう…いきなり、何するの」

顔を離すと息を上げた伊作が説得力の無い、色を含んだ声で抗議する。

「駄目じゃないか…忍務中だよ」

「お前が悪い」

「何で?」

「…そんな可愛いから。それと俺以外の男に触らせるから」

「そんなっ…僕のせいじゃ…ない」

そう言って赤くなり泣きそうな顔をして俯いた。

「何だか…気持ち悪い触り方で…情けないけれど怖かったよ…」

「いさ…」

「…留と全然違うんだもの…正直、留に助けて欲しくて」

「いさ、済まなかった…。気配に気付いて居ればお前に触らせなかったのに。俺のせいだ」

「…」

「どうすれば許してくれる?」

そう言うと戸惑いながら、背伸びをして耳元に口を寄せる。

「…もう一回、口吸い…して?」

顔を見れば耳まで真っ赤にして目を潤ませて居る。

心臓が飛び跳ねた。

「…姫の仰せのままに」

そう呟いて突き上げる衝動を抑えられず、性急に口付ける。

一度始めてしまうとどんどん欲が湧いて、このまま脱がせてしまおうか、なんて黒い感情が時々顔を出す。

いや、それは流石に無いな。
そんな事をしたら当分口をきいてくれないだろう。

そう思って居ると僅かに震える手が自分の手を掴み引いた。

「…とめ、どうしよう」

「なんだ」

「僕…おかしいかも。とめに…触って欲しくて堪らないんだ。…お願い。さっき触れられた所…首筋、とめで消毒して…」

そう呟かれパチンと何かが切れた音がした。

「何でそんな可愛い顔で可愛い事言うんだよ…っ!必死で我慢してたのに、もう知らねえぞ」

小さく頷くのが見えて噛み付くように首筋に口付けると甘い声が漏れ、木から離れて自分に全体重を任せる。

伊作が首筋に弱い事は俺しか知らないだろう。

「あっ…留、三郎…これ以上はっ、ここじゃ駄目だよ…はぁ」

「煽ったのは誰だよ…。ちょっと黙ってろ。消毒終わるまで、な」

着物の上から伊作の尻を撫でるとびくっと体を震わせた。

「だ、誰か…見て居るかも…んんっ」

「誰も居ない。もし居たらとっくに出て来てる。姫ももう着いてる頃だろう。…大丈夫、心配すんなって。こんな所で最後まではしないから」

「さ、最後までって…当然だよ!」

「ちょっとお前を補給させてくれ」

そう言って短く口付けるとお互いの額を摺り合わせたままもう、と笑った。

「留に口紅、移っちゃた」

「仙蔵に怒られちまうな。…怒られついでに化粧取るぞ」

「え、何で?せっかく可愛くして貰ったのに?」

「可愛い過ぎてまた絡まれそうだし、他の奴にお前を見せてやりたくねえし。世界で俺だけ知ってたらいいだろ、お前がこんな可愛いって事」

「…凄い殺し文句だね」

「お前にしか言わねえ」

「えへへ。じゃあ僕も…」

「?」

「…留がどうしてもって言うなら、このまま…いいよ?」

世界で一番好き、そう言って俺の首に口付ける伊作はめちゃくちゃ可愛くて、それを拒絶する理由も術も見つから無いし、と深い口付けを再開した。





「何ですっぴんなのだ。帯も朝と違う結び方になって居る。…留三郎、貴様…っ!」

忍務後、長屋に帰ったら案の定仙蔵に(俺だけ)こっぴどく怒られて、拗ねた俺を後ろから抱き締めながら湯屋で背中流してあげる、なんてまた可愛い事を言う恋人に、じゃあ今度は湯屋でと言った途端に頭を叩かれた。


(完)


さくら様、Happybirthday☆☆
「王子様な留三郎とキュートな伊作が、これ以上ないくらい激甘でイチャイチャするお話」 ←こんな感じになってしまいました(≧Д≦)駄文ですがお受け取り下さいませ。



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