続・塩むすび弁当の段


今月は忍器や火薬を使う実技が多かったせいか授業料がいつもより高かった。
バイトを何日かサボっただけで払えなくなってしまった。

徴収まで日も無い事から食堂のおばちゃんにお願いをして塩むすび弁当を作って貰い、旅人に道中売るという事を思い付いた。

順調に塩むすびは売れたのだが、あと一つという所でウスタケ忍者の仮免試験に巻き込まれ、小銭は得たのだが無駄な時間を食ってしまった。

「んもーっ、明後日には授業料払わないといけないのに!」

急いで帰って内職しなきゃー

小走りで忍術学園へと急ぐ。

途中で大柄な男に声を掛けられ思わず立ち止まった。

「小僧、金は欲しく無いか?」

「金!?欲しいに決まってるじゃん!何、お兄さんバイトの勧誘??夜までなら大丈夫だけど」

そう尋ねると男はにやりと笑った。

「そうだ。お前なら客に酒を運ぶだけで金一枚貰えるぞ」

お前なら?
何だか言い方に引っ掛かるけどー

金一枚貰えれば来月の授業料だって払えるかも!!

「行く行く!連れてって!」

そう言ってほいほいと後ろについて行った。



半刻後、きり丸は後悔していた。

「酒を運ぶ、って陰間茶屋かぁ〜」

これが知れたら…めちゃくちゃ怒られるだろうな。

「金さえ貰えりゃ場所なんてどこだっていいだろ。さ、これを一番奥の部屋に運べ」

…こうなったら仕方無い!
金一枚貰って帰るんだ!

意を決して酒を受け取り部屋に運ぶ。

「失礼します。酒をお持ちしました」

襖を開けると薄暗い部屋の中、綺麗に着飾った陰間とそれに見とれる厭らしい男が寄り添っている。

酒を置きさっさと立ち去ろうとすると声を掛けられた。

「新顔だな。お前、名前は?」

「は?いや、僕は別に…」

「旦那さんに失礼ですよ。名乗りなさい」

陰間にも窘められ、適当に言ってやれと名乗った。

「綺麗な顔をしておるなあ。年はいくつだ?」

「十ですけど…」

「ならそろそろ筆下ろしか。初めては儂がお前を買おう」

うえ〜…キモい。
てか俺が綺麗な顔?
このオッサン、目いかれてんのか。

「どうだ、今日でも良いぞ。こっちに来てごらん」

腕を掴まれ引き寄せられると、男の汗臭い匂いがして尚更気持ちが悪い。

逃げようとすると耳元で囁かれた。

「体を触る代わりに金一枚やろう」

はたと動きが止まる。

どうする…いや、いくら何でもそれは駄目だろ。
でも金一枚だし…
体ってどこ触る気だ?
我慢できるか?

いろんな考えが頭を駆け巡って、気付いたら走って部屋を飛び出していた。

走るように他の部屋にも酒を配り、駄賃を貰って店を出ると背中越しに勧誘の男からまたいつでも来いよ、と声を掛けられた。
振り返らずに走った。

すっかり暗くなった道を走って走って、忍術学園の門が見えた時、うろうろとする人影に気付く。

自分が近付くとこちらに顔を向け、眉を下げてふうっと息を付いた。

その顔を見た瞬間、抑えていた物が溢れ出して思わず彼の胸に飛び込んだ。

「せんせぇ…土井せんせー」

「お帰り。食堂のおばちゃんから聞いて帰りが遅いから心配しただろう。…どうした?」

何だか後ろめたくて先生の顔が見れない。
いつもと違う様子に顔を覗き込もうとするが、引き剥がせないと分かると溜め息を付いて頭を撫でられた。

「授業料、払えるのか?」

喉から声を絞り出す、

「…あと、少し。先生…俺実はー」

そう言うと先生が自分の口に人差し指を当て、しぃ〜っと囁く。

「先生方には秘密だが、今職員室で造花作っているから一緒にやるか」

驚いて先生を見詰める。

「お前が頑張っている事、みんな知っているから誰も責めたりしないよ」

…何を?
先生に内職をさせる事?
それとも…さっき俺がしてた事?

何も言えないで居ると手を差し出された。

一瞬躊躇って顔を見やると優しく微笑んで見詰められ、俺もやっと笑って手を取る。

「あ〜あ、今日は徹夜かなぁ?」

「お前に鍛えられて私も随分速くなったから大丈夫だろ。任せなさい」

「でも先生雑だからぁ〜」

「やらせといてそれは無いだろうがっ!」

繋いだ手が温かかった。



茶屋の客に器量の良い“半助”と言う少年が間もなく店に立つと噂が流れたのは後日談ー。


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