酷い!絶対に僕は悪く無いんだから! これほど誰かに感情をぶつけた記憶なんて無い。 確かに記憶力は悪いかも知れないけど、絶対に無いと思う。 それは確かにあの人が特別で、大好きで、大切だからー。 なのにどうしてこんな風になってしまうのかな…。 一番好きなら 「きり丸君…寝てる、よね?」 泊めてくれる所なんてここぐらいしか無い。 利吉さんに教えなくても考えればすぐに分かる事だった。 「小松田さん…何すか、こんな時間に。って理由は何となく分かるけど」 明らかに起こされた気怠い声が聞こえて中に入る。 いつも布団が三組敷かれている筈の部屋は、真ん中に一組だけ敷かれ広く感じた。 「あれ?二人は?」 「実習です。て言うか出門票にサイン貰ってましたよね?」 そう言えば今朝貰った事を思い出して頷く。 枕を抱き締めたまま立ち尽くして居ると、どうぞと同室どちらかの布団を押し入れから出して敷いてくれた。 「大体何があったのかは分かりますけど…聞きましょうか?」 そう言って布団に入り、俯せに肘を付いた格好で自分を見詰める。 相変わらず綺麗な顔立ちに一瞬見とれてしまった。 もう彼は忍たま五年生になった。 一年生の頃から見た目も随分変わったが、中身は素直で小銭好きの少年のままであった。 自分とも変わらず親しくしてくれているのを良いことに、何度この部屋に泊まっている事だろう。 「…利吉さんが酷いんだよ!」 思った以上に大きい声が出てしまって慌てて口元を塞がれる。 「五月蝿いです!…確か、利吉さんに告白されて今日初めて会ったんですよね?」 「うん…」 「あんなに楽しみにしてたのに、何で喧嘩になったんすか」 何でー。 「…僕が利吉さんを試す為にお見合いの話をしたら怒って出て行って、湯屋から帰って来て押し倒されて、口付けされて、初めてじゃ無いって言われて…」 経過を辿って呟くと盛大に溜め息を付かれた。 「ぜんっぜん分かんないっす!ちょっと、整理してもう一回!利吉さんが来た時から!」 明日朝早いのに、と呟いたが怒った様子も無く付き合ってくれる彼は優しいなぁ、と内心思う。 利吉さんが来てからの出来事をもう一度、ゆっくり話すと何とか理解してくれたようだった。 「それで逃げて来たんすね」 「にっ、逃げてないよ!だけど…あそこに居れないじゃ無い?利吉さんに…嫌いって言われるかも知れないもん…」 こんな僕なんてそれほど彼を繋ぎ留める魅力無いし、と呟くときり丸君が小さくふうっと息を吐いた。 「小松田さんは利吉さんが好きなんすよね?」 「…うん」 「絶対に?」 「…う、うん」 「単なる憧れじゃなくて?」 「え…憧れ、ては居るけど…」 「じゃあ好きじゃなくて只の憧れかも知れない。忍者として格好良いしー」 「ち、違うよ!利吉さんの事…そりゃずっと憧れていたけど、好きで好きで、考えるだけで何て言うか、苦しいって言うか…こんなの利吉さんにしか感じないんだよ!」 息継ぎもせず一気にまくし立てたせいで咳込んでしまって、思わずきり丸君が噴き出した。 「あはは、すんません!だって、小松田さん必死だから…」 「きり丸君が意地悪言うからだよ〜!」 笑いを収めて頷きながら自分を指差した。 「ね、人の気持ちなんて今ぐらい言わないと伝わらないんすよ!」 驚いて目を見開いたまま目の前に差された指 を見詰める。 「小松田さんは自分の気持ち、今ぐらいはっきり伝えたの?」 「…ううん」 「じゃあきっと利吉さんだって分からないよ 。小松田さんと同じように悩んだんじゃ無いかな」 あの余裕綽々な利吉さんがー? 思っても居なかった言葉に頭が真っ白になる。 「…そんな筈無いよ。あの利吉さんが」 首を振りながら否定すると真剣な顔で自分を見た。 「俺だって"あの"先生が、って思ってたよ」 そう言ってとても綺麗に笑った。 5/12 mokuji top |