Memories









あれから数年後、仕事帰りに通りかかったあの店。

僕は、車を止めてもらった。

あの日以来一度も訪れたことは無かった。



新しい店が出来ていたり、周りの景色は少し変わっていたのに、この店はまったく変わらないまま、この場に存在しているのがとっても不思議に感じた。

ゆっくりと扉を開く。


―チリンチリン


今までに無いぐらい、すがすがしく心の中に鈴の音が響く。

まるで、君が微笑みかけてくれた気がした。


お店の一番奥。

ちょうど空いていたその席に視線を写す。

優葉がもういないその席。



僕はあの日のようにそっと隣に腰掛ける。

そして、冷たい革張りのシートに手を当てた。



「東方神起のチャンミンさんですよね?」

「ああ、はい。」


あの時は一度も聞かれたことが無かったのに。

あのときより、僕らはだいぶテレビに出るようになった。

なんだか少し誇らしい気分になる。


「お久しぶりですよね?」


そう、伺うような表情で言う店長に僕は少し驚いたが、笑顔でうなずいた。



「とりあえず、ビールを一つ。」

「あの、すみません。」

「なんですか?」

「こんなことお話していいのか分かりませんが・・・」












ねえ、優葉


バーの店長があの日、僕が去った後、君が子供のように泣いていたと教えてくれたよ。





僕には決して見せなかったその姿。


僕は瞳を閉じて、あの日笑顔で僕を見送った後、ここで泣き崩れる君の姿を眼に浮かべる。




あの後、僕はがむしゃらに働いた。

いつでも笑顔でめげずに歌い続けたよ。

歌声は届いただろうか?


優葉のあの日の涙を笑顔に変えられただろうか?


僕は出された生ビールを喉の奥に流し込む。

一気に半分減ったグラス。



ゆっくりコップについた泡が下に沈んでいく。



きっと優葉は笑顔で僕を見ててくれるよな。



また明日からのハードスケジュールをこなす為に、僕は残りの半分も一気に流し込んだ。







優葉、いつまでも笑顔で笑っていて。

くじけそうになったら、僕の歌を聞いて欲しい。

いつでも僕は優葉の味方だから。













END




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