Novel
「よっ!俺はエリオットマーチだ!よろしくな。ニンジンケーキ食うか?」
そういうエリオットは、目をきらきら輝かせてオレンジ色の皿を渡してくる。
『いや!!遠慮しておくよ。君だっていつも仕事で疲れているだろう?ブラッドの為だとはいえ、休憩も必要だ。
遠慮なく食べてくれ!』
(あー・・・ニンジンを押し付けんな。クソウサギ)
「あんた・・・いい奴だな!ありがとうな」
『あは・・・はは』
あからさまに顔を引きつっているであろう僕に気づかず、エリオットはニンジンケーキに顔をうずめる。
(・・・・・・)
何かもの足りない。
そう思って周囲を見渡す。
「どうしたんだ?リナリー」
僕の視線に気づいたのか、ブラッドがたずねてきた。
『ディーとダムがいないなーと思って』
エリオットのにんじん劇に、いつも欠かさず突っ込みをいれる双子が、今日はいないのだ。
どうしたものか、とたずねてみた。
「今頃、猫のおちびさんとじゃれあっているんじゃないか?子供は元気だな。それより・・・」
(それより?)
っ!!
ブラッドが、いつの間にか後ろに移動していた。
(気配がない!?)
「リナリー。君の心は、此処に居ない者にとらわれている。もてなす側の主としては、おもしろくない」
そう言って、僕の髪に口付けをする。
『ちょっとっ・・・』
何をやっているんだこの男は。
その見た目では女に飢えているわけではないだろうに。
「少し体温が高いな。そろそろ眠気が襲ってくる。部屋に案内しよう」
*****************************************
『あのー・・・』
「なんだ?」
『なんだ?じゃないだろう・・・。なぜ君の部屋なんだ。そしてなぜ添い寝をする!?』
この部屋に来る前、ぴらっぴらのネグリジェに着せ替えられた。
そのまま客室に案内されるのかとおもいきや、ブラッド自ら部屋に招きいれた。
(気に入られたのはいいけれど・・・)
近い。
何よりも問題なのは、二人の距離が、吐息を感じるほど近いということにある。
「いいから眠りなさい。おやすみ。リナリー」
なんか誤魔化された気がハンパない。
もしかして、と考える。
先ほど、茶会の席で僕に近づいてきたのは、僕の体調を気にしてのことだろうか?
(そんなはずはない)
そう思わなければ、この男の優しさに飲まれてしまう。
残酷ゆえ引き立つ優しさに、触れてしまう前に。
そのまま僕は、意識を手放した。
=============================================
〜あとがき〜
やっと土台というか出会いというか・・・
次回は、ブラッドさんのベッドで目覚めます。
・・・目覚めます!!(なんで二回いうんだ)
一度でいいから目覚めたい!
〜siki〜
==================================================