アイツの瞳は、いつもあの人を見ていた。


「なあ」
「なに?」
「なに見てんだよ」
「なにって、霧野先輩だけど」


そう言ったなまえの側に行くと、グランドで神童先輩たちとサッカーをしている霧野先輩が見えた。


「飽きねぇな、お前」
「うん、好きだもの」
「……フラれたのに?」
「フラれたからって、すぐに嫌いになるわけじゃない。ていうか、なれないよ、あの理由じゃ」


なまえは1度霧野先輩に告白してフラれている。それを知った後に霧野先輩に理由を聞いたら『今はサッカーに集中したいから断った』と言われた。


「分かってたんだ、本当は」
「なにを?」
「フラれること」
「なんで」
「男の子ってスポーツに熱中するものでしょ。それに、今はサッカー部にとって大事な時だし」


俺たち雷門イレブンが、管理サッカーとなってしまったサッカー界を変えようと革命を起こしている事は、全校のヤツらが知っている。そして応援してくれている。なまえもそのひとりだ。


「じゃあ、なんで告ったんだよ」
「……知っていて欲しかったから、かな」


なまえは霧野先輩を見つめたまま続ける。


「私の気持ちと、霧野先輩を想っている私の存在を知って欲しかった。向こうに存在を知られないまま想うのって、なんか寂しいじゃん」
「……気持ちが返って来なくても、それでもいいわけ?」
「存在を知られないよりはマシ。狩屋だって、きっと分かるよ」


なまえの長い髪が、フワッと風に靡く。少し甘酸っぱい香りがして、さらに切なさを誘う。


「俺は、言わないな」
「なんで?」
「一方通行なんて、自分が悲しいだけじゃん」
「狩屋、片想いなの?」
「……まあ、な」


無意識になまえを視界に入れないようにする。


「伝えちゃえばいいのに」
「絶対に言わねぇ」
「なんでよ、言えば楽になるかもよ?」
「絶対嫌だ」
「なんで」
「……ソイツが誰を好きなのか、知ってるから」


なまえの口がピタッと止まる。


「……そっか」
「ああ」
「それは、ツライね」
「……ああ」


ホント、毎日胸が痛くてたまんねぇよ。


「本当はそっちだってツライんじゃねぇの?」
「え?」
「片想いでツラくないなんて、あるわけないじゃん」
「……そんな事ないよ」


再び視線が霧野先輩に向く。


「私は霧野先輩がサッカーしてる姿を見れれば、それでいいから」
「……嘘つけ」
「本当だよ。私は霧野先輩のサッカーしてる姿を好きになったんだから……いいの、本当に」


……どんだけ強がりなんだか。


そんな泣きそうな瞳で言っても、全然説得力ねぇんだよ。その顔見るたびに、俺がどんだけ胸痛めてるが知らねぇだろ。



片想いが1番楽しいなんて、嘘だ。





好きになっても、報われなきゃ意味ねぇんだよ。






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