やきもち焼きの休日 | ナノ



きもち焼きの休日
「あ、撫子?」
 久しぶりに2人揃って空いた時間が出来たので、散歩していると中等部時代からの友人に偶然会った。
「やっぱり撫子だ!どーも、加納君。2人でお出かけ?相変わらず仲良いね、羨ましいわー」
 一息で言い切ると彼女はいつもの明るい笑顔を見せた。友人である彼女は何かと私たちのことを気にかけて世話を焼いてくれるのだが、ふと、私の左手に目をとめた。
「ああ、それが例の…。いい指輪もらったね、撫子。さてさて、お邪魔虫はさっさと消えますか。それじゃ、またね!」
 急ぎの用事でもあるのか、あっという間に行ってしまった彼女の後ろ姿を見送ると、私たちはどちらからともなく手をつないで歩き始めた。
「いつも慌ただしいな、あいつは。…ま、今回のことで頭上がんなくなったけど」
「どういうこと?」
「お前の指輪のサイズ、あいつに聞いたから」
 それなら納得だ。最近はお互い忙しくてなかなかそうもいかないけれども、彼女とは以前はよく一緒に買い物に行っていた。時折アクセサリーを買うこともあったので、サイズを知っていてもおかしくない。ただ…。
「…撫子?」
「普通に話せたのね、あの子と」
 理一郎とあの子が会うときは、いつも私が一緒だったからかもしれない。私抜きで彼女と話をする理一郎の姿はイメージしにくかった。

 なんだか急にもやもやする。

「お前な…」
 少々とげのあるような言い方をしてしまったからだろうか。理一郎に盛大にため息をつかれてしまった。
「お前だって鷹斗と普通に話せるだろ。必要があれば話すくらいなら出来る」
「そう、ね…」
 確かにそうかもしれない。大きな違いなんてあるわけない。
 そう頭では分かっていたけれど、心はついていってくれなかった。そして心が訴えることを、頭は信じようとはしなかった。

 …嫉妬だなんて。

(指輪もらったのにそんな気持ちになるなんて情けないわね、私も)
 理一郎のことは誰よりも信じられるし、彼女だって私のために話してくれたに違いない。それでも、このもやもやは止まらない。
「でもどうしてそこであえて鷹斗が出てくるのよ」
 口をついて出たのは、今思えば可愛げの欠片もない言葉だった。いつもみたいな口論へと変わってしまう。
「あのな…、いや、別にいい」
「何よ、自分で言い出したくせに」
「そこを気にしてくるとは思わなかったんだよ」
「昔から何かあるとすぐ鷹斗、鷹斗って…。私の隣にいつもいてくれて、これからもいてくれるのは理一郎でしょ、鷹斗じゃないわ」
 それだけは絶対に譲れない。私が子供のころは鷹斗のことが好きだったと理一郎が思い込んでいたことを最近知った。でも、それだけはありえない。鷹斗は尊敬できるし、友達としては好きだけれどそこまでだ。
「昔からって…。その頃はオレのことなんて家族同然の扱いしかしなかったくせに」
 理不尽な文句ばかり言ってしまったかも、と反省し始めていたがさすがにかちんときた。

「あら、でも今度そんな私と家族になるのはどこのどなたかしら?」

「…」
 理一郎が急に黙って立ち止まってしまった。私はそのままバランスを崩しそうになってしまい、文句を言おうと振り返ったけれど何も言えなくなってしまった。なぜならその頬が普段とは比べ物にならないくらい赤く染まっていたからだ。私とつないでいないほうの手で顔を押さえてはいるものの、全然隠しきれていない。珍しい光景に思わずこちらまで恥ずかしくなってしまうが、今までの会話のどこにそんな要素があったのだろう。
「…オレだな」
 ようやくそれだけ言ったかと思うと、また黙ってしまった。

「そうでしょう?…理一郎、なんで照れてるのよ」
「…照れてない」

 いつもよりほんの少し温かくなった手をつないだまま、私たちは再び歩き始めた。


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