玄冬

 仄暗い熱に浮かされたような私の恋は貴女にとって、どうやらとても美しく映るようだ。すっかり冷え切った手を握ってくれる同じように冷たい手は、真夏のころより幾分か白くなったように見えた。冷たい、ひどく冷たい指の奥で燃え盛るこの熱を何に例えよう。焔などより熱いと思うのに、私の頭は今、それ以上に熱いものを思い浮かべることに梃子摺っている。深い雪の中を沈むように歩いていく足と同じ程度の、そんな速度でしか回らなかった。
「寒いね」
「うん」
「燈火、いつも指先とか冷たいから心配になるよ」
 白い雪の中を、短いスカートと革靴で彼女は進んでいく。転ばないようにと繋いでいる手は時々蝶々結びのように緩くなるから、そのたび歩くどころではなくなって、その指をぎゅっと握って、その繰り返し。無意識なのか、力をこめると必ずそれ以上に握り返してくれるから私はまた、凍った道の上でも歩いていくことができる。革靴の先に積もった雪を見つめて、口には出さずにそう考えた。靴箱にしまったままのスニーカーを、彼女はきっと知らない。彼女の靴箱にもスニーカーが入っていることを、私は知らない。
「あのさ、燈火」
「なあに?」
「先に帰っても、いいんだよ」
 頭の奥に、鮮やかな夕焼け色が塗りつけられた。記憶に新しいとは言えず、けれどそこまで古くもない。そんな会話に今一度身を埋めあって、繰り返すことに何の意味があるだろうなんて考えることさえ愚かしい。ガールズトークには平安の昔から、いつだって重さなどないのだ。だからこの返事にだって、胸を潰すような大きな意味など。
「知ってる、そんなこと」
「うん」
「知ってるけど、私が一緒にいたいの」
「……」
「……睡?」
帰りたいの、という言葉を選ばなかったのは無意識だった。繋がった手には寒さのせいなのか何なのか、ずいぶん力が入っていて痛い。振り返った彼女はとても綺麗に微笑んでいて、私の中の煤に塗れた心を見透かす目をしていた。嗚呼。
「ねえ、燈火」
「なあに?」
「あいしてるよ」
凍りつくほどに、熱い。ずっと真綿の奥で燻っていた心臓が、息を吹き返した。

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