白秋

 青い春が死んだことをはっきりと感じたのは、薫に出会った瞬間だった。すべてはあのときに始まってあのときに終わっていて、だからきっともう結末もそこにあったのだ。俺達はここから先に何を求めることもできないし、それを見出すことさえ不可能だという位置に、とっくに立ってしまっている。歩き回ったところで結末の先にあるものなんて、泥のような宝石のような、そんな遠浅の海を踏むばかりの日常だ。
「薫」
「ん?」
「テスト、何点だった?」
 屋上の真ん中で見る空は一段と高く見えて可笑しい。上ったのだから少しは近く見えてもいいはずなのに、息を切らして階段を駆け上がれば上がるほど、ドアを開けた先の空は青く遠く見える。そう言ったらかつて、薫は何だか意味が分かっていないような顔をして、じゃあ校庭にでも寝転んでくればいいとストローを噛んで言った。校庭と屋上じゃロマンの大きさが違うだろうとまで言っても分かったようには見えなかった、こいつには高校生男子としての何かが欠けているんじゃあないかと時々思う。
「35位だったけど?」
「ああ、いや……ああそう」
「なに」
「何でもね」
 何点だったと訊いたのだが、返ってきたのは点数ではなく順位だった。まあいいか、と思う。訊き直すほどの気分になれないのは、この場所がひどく快適なせいだ。適温は人をのろくさせる。小さな後戻りが億劫で、そのまま会話を進めた。
「お前、相変わらず微妙に頭良いよな」
「そう?橘は?」
「……146位」
「相変わらず、微妙に頭悪いよね?」
「俺に訊くな」
「っ、はは」
抑揚の少ない声が、ふいにラインを外れるようにそう笑った。笑うなよと言えばごめんと言うが、悪びれないで弧を描いたままの唇が視界の端に映る。勉強なんかいいんだ、と言ったらそうだねとあっさり同意されてなんだか複雑な心地になったのは否めない。
「……橘、僕はさ」
「あ?」
「君のできないことが当たり前のようにできたい。勉強する理由なんて、そんなもんだよ」
ああ、はっとするような青い春がもう一度死んだ。

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