青春

 線路と並行するように、道は所々うねりながらも果てしなく続いている。カンカンと鳴り渡る踏切を通り過ぎたところで、ごうと電車が走り抜けて、後ろから僕らを追い抜いていった。その一瞬の何かを、聞き逃してしまった。
「なに、」
「え?」
「今、何て言った?」
前を走る自転車の上で放られる言葉は、こうして物音がなくなってもいつもより聞こえにくい。かと思えばまるで放り出された声の上を、それを拾いながら走っているのではないかとさえ思うほど、やけにすっきりとしてもいた。きっとそれは僕が今こうして橘の声に意識を集中させる努力をしているからで、現実には聞こえやすいなんて、そんなはずはない。それに気づくと同時、自分が日頃傍で話をするとき、いかにぼうっと彼の話を聞いているのか思い知らされたような気になって、後頭部を内側で殴られたような感覚がした。鈍器で、などというほどの衝撃ではない、緩やかな痺れ。雨上がりの草と川の匂いに、吸い込んだ息を細く長く吐き出す。
「今って、いつ」
「もうさっきになったけど」
「電車が過ぎたとき?」
「そう、それ」
 遠くで四時を告げる鐘が鳴っていた。道はどこまでも続いている。少なくともまだ、ここからでは終わりもなければ曲がり角も交差点も見えない。意図もなしにベルを鳴らしたら、中途半端に立って漕いでいた橘がサドルに腰を落ち着けた。轍にもならないアスファルトの、両脇を割って生えている青々とした草が黄色い花を咲かせているのが目に入って、通り過ぎていく。
「寄り道しようって言ったんだよ」
「どこへ」
「今日じゃない。明日の話」
「いいけど、どこに」
「さあ。薫、どこがいい?」
通り過ぎて、いく。川面を跳ねる光が視界の隅でけたたましく散った。前を走る背中は振り返りもせずに、心なしか声を張り上げてそんなことを訊いてくる。少しだけ考えて、考えるのをやめて、言った。
「明日の、天気次第で」
どこでもいい、という言葉を呑み込んで、つられるように日頃より大きな声で答える。向かいの風が喉へ入って、曖昧な冷たさか或いは暖かさを、残すふうを装って消えた。

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