11:大樹の下で


「それは、伴侶として……ということ、ですか」
「それ以外の、何の意味に聞こえるんだ」
 この言葉も勘違いをしていたらどうしようかと、恐る恐る訊ねれば、答えはすぐに返ってきた。迷いを感じさせる隙の、爪の先ほどもない返事だ。
 開こうとした唇が、せり上がってくる熱に震えてしまう。ルエルがあまりに大粒の涙をこぼしたので、ジャクラはまた何か問題があったのかと、慌てて自分の袖で拭った。
「どうしたんだ、泣くほど嫌われたか?」
「ちが、そうではなくて……っ」
「うん?」
「私は……っ、恋をしているのは、私だけかと思っていたから――」
「え……?」
 ジャクラが呆気に取られたような顔になる。気づいていなかったのか、と問われて、ルエルは何度も小さく頷いた。
 伴侶として選んでほしい、とまで言われても分からないほど、鈍いつもりはない。けれど今の今まで、確信はなかった。雨憑姫だから、ジャクラは自分と結婚してくれる。アデールのことを差し置いても、ルエルは雨呼びの力を抜きにして、自分が特別に想われている自信などなかった。
「ずっと? ずっと、そう思っていたのか?」
「はい」
「……そうだったのか」
 短くも深いため息がつかれる。ジャクラは涙を拭っているルエルの手を掴むと、自分の胸へ引き寄せて、息を呑んだルエルの体が軋むほど強く抱きしめた。
「悪かった」
「ジャクラ……?」
「感情を取り戻したばかりのお前に、あまりあれこれ押しつけると逃げられてしまいそうな気がして、言葉にはしなかったんだが……隠しているつもりもなかったから、とっくに気づいていると思っていた。余計な遠回りをして、誤解をさせたな」
 夕日に照らされた歩廊の隅で、密やかに抱き合ったときとは違う。それはルエルの中にある一人で思い悩んだ時間や、寂しさや怖さ――喜び以外のすべての感情を追い出して、愛情で埋めようとするような強い抱擁だった。
「俺は、お前が好きだ。眠りから覚めた俺を見て、初めて泣いてくれた。あのときから、とっくに」
「……!」
 囁く声ははっきりと、ルエルの耳に届いて、胸の奥底へ刻まれた。ぱらぱらと降り出した雨が、無花果の葉をくぐって、ジャクラの背中を叩く。
 今はその雨からさえも守るように、彼は動かず、吐息で微笑んだ。
「結婚しよう。俺を、選んでくれ」
 呼吸が止まるかと思うほどの、この一瞬を。ニフタにいたころの、感情を抑えたままの自分では、きっと生涯知ることはできなかったろう。
 ルエルは両腕を伸ばして、初めてジャクラを抱き返した。そうして唯一の答えを渡すために、唇を開いた。


- 38 -


[*前] | [次#]
栞を挟む

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -