15 召集


「ええ、私ですが」
「ウォルド国王からの使いで、書状を届けにまいりました」
「え……」
「コートドールと、近辺に暮らす魔女の方々に知らせて回っています。これを」
 国王、と聞いてようやく、ユーティアは彼らの胸にアザレアのワッペンが施されているのに気がついた。城からの使いだ。どうしてそんな人がうちなどに、と戸惑っている間もなく、目の前にずいと紙が突きつけられる。反射的に受け取らざるを得ない、強引な突き出し方だった。
 三つ折りにして紐で結ばれた書状を、ぱらりとほどく。上質なクリーム色の紙の上部に、大きな字で「召集」と記されていた。
 何のことだかすぐには理解ができずに、ぼんやりと、下部に走らされた署名を見つめる。ウォルドレッド・V・アルシエ――ほとんど略されていない国王の名前を見ることは、この国では珍しい。
「此度の戦争は、アルシエの長い歴史においても、厳しく激しいものとなることが予想されます。すでに四国を合わせて十万の兵が国境へ送られましたが、それに比べて、負傷した者を診ることのできる医者が圧倒的に少ない」
「ええと……?」
「わが国以外からも医者を出してくれるよう要請していますが、これがなかなか、思うように集まらなくて難航しています。つまり」
 書状を差し出した男に比べ、背の低いほうの男が、捲し立てるように言った、
「魔女の中でも薬の知識を持つ、薬草魔女の方々には、医者を手伝う医療班として従軍していただきたい。国境の傍には何せ、森も広がっています。植物から薬を作ることのできる貴方がたであれば、力を発揮できること間違いないでしょう」
 召集、という言葉の意味を、今さら思い出した心地がした。医療班としての従軍。つまりこれは、戦地への呼び出しということだ。薬草魔女として、戦場へ赴く。考えたこともなかった出来事に、ユーティアの頭は真っ白になり、あ、ともえ、ともつかない意味のない声だけが唇からこぼれた。
 この戦争に、魔女が参加する。
 自分が、参加する。
「詳しい内容は書状に記してあります。我々は次へ回らなければなりませんので、これにて。書状にある指定の日時を確認して、城へ行ってください。念のため申し上げますが、これは国王様からのお呼び出しです。くれぐれも、無視されるようなことはありませんよう」
 隙のない、事務的な口調で背の低い男が並べ立て、ユーティアに一礼すると隣の男も遅れてそれに倣った。一方的で、こちらの意見は求めていないという態度がありありと表れている。彼らはせかせかした足取りでソリエスを後にすると、振り返る気配もなく、川に沿ってどこかへ歩いていった。
 新聞の中で綴られていた「戦争」が、唐突に目の前に現れた気がして、頭の奥ががんがんと鉄の棒で殴られている感じがした。書状を手にしたまま、呆然とその場に立ち尽くしてしまう。
 やがてベレットが戻ってくるまで、ユーティアはずっと、足が動かなかった。


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