13 暗雲


 ユーティアは多くの話から様々な可能性を想像して、じっくりと考えるのが苦手ではない。新聞の文字と文字の間を、焦点を合わせるともなしに眺めながら、以前の会談のときに写真で見たレイスの国王の顔を思い返していた。アルシエの国王よりは若いが、初老の、恰幅のいい朗らかそうな人だった。どこかマルタを思い出しそうになって、それは違うと首を振る。
 雰囲気としては彼女に近い、人当たりの良さそうな人物だった。冷酷になりきれずに些細なものにも気を配って、問題の種を抱えてしまう側面も、十分に持ち合わせていそうな。
 レイスはセリンデンから見ると、欠片の一つのように小さな国だ。魔女への態度はアルシエと同じく、比較的穏やかだったはずだが、それゆえにセリンデンとの関係が危うくなっているとしたら、贔屓目に見てもレイスに勝ち目はない。
 レイスがこのところアルシエに接近している理由は、助けを求めるためだ――民衆の間で囁かれている噂の結論だが、ユーティアも薄々そうではないかと感じ始めていた。近年はアルシエでも、工業の発達が注目を集めてきている。国王が鉱山の麓に建てさせた工場では、武器の製造が行われているという噂も、否定する情報がないままに町を闊歩し続けている。
「雲行きが悪くていやね。戦争なんかにならないといいけど」
 何かが水面下を動いていて、その正体は掴めないのに波紋の感触だけは常にある。そんな状態に不安を訴える人は、近頃増えた。
 そうね、と頷きながら、ドアの向こうに見える道へ目を向ける。路地は静かに、プラタナスの葉を風に靡かせて、日だまりを広げている。

 その翌年の夏、長らくアルシエを治めてきた国王が眠るように息を引き取った。八十四歳だった。
 不穏な空気の中での王の逝去は、国全体に言い知れぬ戸惑いをもたらした。波紋のように、いくつもの輪が生まれて広がっていく。
 ユーティアもわずかながら、その波に足がすくわれそうになるのを感じた。真夏を目前に控えた空は青く晴れ上がるのに、城の塔から同じ青をした旗は降ろされている。黒く垂れ下がった三角の旗の下を、二羽の鳩が飛び交っていた。
 やがて三羽になり四羽になり、銀色の日差しを受けて見えなくなった。


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