第八幕


「目には見えないものの話は嫌いか?」
「いえ、そのようなことは」
「纏う空気の話をしたのだ。体つきや口調は何も変わらないが、以前よりそなたを柔らかく感じる。……焦らずに、良い結論を出してくれ」
 ハイエルは思わず、微笑んだ王と対称的に瞬きをした。雰囲気の話だったようだ。だとすれば、なおさら自覚はない。傍目に見て指摘されるくらいであるからきっと変わったのだろうが、指摘されても尚、自分では以前と何が違っているのか見当がつかなかった。
 ただし、心当たりならば。
「……はい」
 頷いて、ハイエルは歩き出そうとする王にもう一度深く頭を下げた。しばしそのまま、背中が遠ざかるのを見送る。蔓草の紋章を背負って、王は光に照らされる廻廊をゆっくりと曲がって見えなくなった。
 空はまだ明るく青い。やがてハイエルの足音だけが響いていた廊下にも、昼食に向かう扉番たちの金属質な足音が聞こえ始めた。


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