第六幕


 トコロワの者でも王家の娘でも何でもない、両親を思う一人の少女がそこにいた。ああそうか、と、ふと気づいたことに、ハイエルは自分の中で納得する。
「あの、ハイエル様」
「何ですか?」
「良ければもっと、お話を聞かせていただけませんか。この母の髪が、どのように翻るのか。父の足音は、どのようなものなのか」
 十八年越しの出会いに、畏まっていたのは自分だけではない。ライラも同じだ。王女としての気品に溢れた振る舞いの裏側で、ずっとそんな不安を抱えていたなど、爪の先ほども見せようとはしなかった。
 さぞ、怖かったことだろう。こうして自分と顔を合わせて、万が一、その不安が現実のものとなる可能性を考えたら。自分よりも自分の両親を見ている者が、会いに来るのだ。恐ろしくなかったはずはない。
「……お優しい方だ。お二人といい、カナリー様といい、貴方といい」
「はい?」
「独り言です。そうですね、何からお話し致しましょうか――」
 それでも、こうして応じてくれている。己が傷つくことを最後には怖れない性質は、ある種の血統だろうか。美しい血だ。
 ハイエルはその日、ライラに求められるままに、王と王妃についての話を聞かせて過ごした。些細なことほど彼女の興味関心を引き、小さな癖や仕草の話になると、声を立てて笑った。
 そうして父母の話に耳を傾ける姿は、歳相応の、若くして家を出た少女か何かにしか見えない。大切そうに抱えられた写真に目を落として、ハイエルはできる限り記憶をかき集め、時間の許す限り、二人の話を続けたのだった。


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