Epilogue -巡るものたち-


「テオ・アーウィング、ナンバー106です。ウェストノールに帰還しました。浮力残量六十、問題なし」
 ザザ、と無線は繋がりあう声の間で二度、三度震えた。鳥の影が足元を過ぎり、思わず空を見上げる。澄んだ水色が、どこまでも広がっていた。鳥の姿はもうどこにも見えず、代わりにWの文字を記した飛行艇が視界の中を横切っていく。
「お疲れ、テオ。今日は……、ああ、これで上がりか」
「うん」
「連絡事項は特になし。ていうか帰還って、今どこ?」
「屋上だよ」
「ああ、なるほど」
 無線を受けたのはマシューだった。管理所の広い窓からは、停留場が見える。帰還の報告を受けているのにルーダの姿がそこにないことを、不思議に思ったのだろう。聞こえないことは重々承知で、テオはとんとん、と爪先で足元を叩いた。この下は、ウェストノール飛行艇士管理所の事務所だ。
「じゃあ、飛行艇はもう少し使うかな?」
「おう、夕方には置きに来るよ」
「了解」
 カタカタとタイプライターを打つ音が聞こえた。飛行艇は専用機であれば、時間外でも自由に使用が許可されている。中等飛行艇士以上の特権だ。仕事が終わった直後にそのまま続けて使用したい際は、問題が起こって帰還できずにいる誤解を避けるため、こうして報告を出す。
「セネリちゃんによろしく」
「はいはい」
 テオが屋上に飛行艇を停めたあとの行き先が、大体において同じであることを知っているマシューは、笑い交じりにじゃあねと言って無線を切った。せっかくの半休なのだから、さっさと行けということだろう。無線機を操縦席に戻し、再びそこに乗り込んでベルトを締める。今日は日差しがそれほどきつくない。ゴーグルを外して乗客席へ放り、テオはレバーを握った。


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