四章 -アゼリー会の参加者-


 ヴン、と低い音を伴って、飛行石は眩い青を潜めた。晴れ渡る夏の日差しを浴びて、停留場に降り立った飛行艇は翼を鈍く輝かせる。
「ありがとうございました、お気をつけて」
 テオは反射を遮るためのゴーグルを頭の上へ押し上げて、客席から降りる深緑の帽子を被った男を見送った。深緑の筒型に、三つ編みにした金の紐を回してGの文字を刺繍した帽子は、王都の遺跡研究者会に属する者の証だ。遺跡の多くは王都に集まっているが、それは決してすべてではない。彼らは常に、調査のためにあちこちを飛び回る。そして年に一度、王の号令で大陸中に散らばっていた研究者たちは一堂に会し、互いの地での成果を報告しあうのだ。このときになると王都の停留場はいつになく混み合うため、臨時の管理所が設けられ、木造の簡素な建物の中で職員たちの慌ただしく行き交う姿が窓の外からも窺える。
 男の荷物を載せて後ろを飛んできた中等飛行艇士が少し着陸に手間取ったので、テオも飛行艇を降りて荷物の受け取りを手伝った。ああ、どうも。三十をようやく超えたくらいの、愛想のいい研究者の男はそれを気にしない。いいえ、と返して重いトランクを受け渡しながら、テオはちらと腕時計を確認した。次の出発まで、まだ時間に余裕がある。
「アゼリー神殿まで、ですか?」
「ええ」
「徒歩で行かれるんでしたら、よろしければ荷物、手伝いましょうか。トランクにボストンバッグでは、この石畳をお一人で行くのは大変でしょう」
 停留場のすぐ傍から広がる道は、凹凸の多い昔ながらの石畳の景観を保っている。この時期に王都を訪れる研究者の向かう先は、大概がアゼリー神殿だ。彼も例に漏れずそのうちの一人だったようで、テオの申し出に恐縮しながらも迷わず有り難いと礼を言った。荷物が多いことと手間をかけさせることを、トランクからハンカチを取り出して額に滲んだ汗を拭いつつ詫びる。
「お気になさらず。アゼリー会の時期には珍しくないことです」
「どうも、そう言ってもらえると助かります。何せトランクは資料だけでいっぱいになってしまったので、旅の荷物はボストンバッグに詰め込むしか手立てがなかったもので」
「研究者の方は、皆さん重いトランクを引いていらっしゃいますね。そういえば、何を研究されているんですか」
 中等飛行艇士の知り合いに飛行艇を見ておくよう任せ、テオはボストンバッグのほうを肩にかけて歩き出した。男は地図を出そうとしていたようだったが、テオの足取りが迷いなくアゼリー神殿へ向かっていることに気づいたようで、ほっとした顔でついてくる。革のトランクの車輪が、彼の歩調に合わせて石畳の上でゴトゴトと鳴った。踵の硬い、磨かれた革靴を履いている。古い石の上では、そちらもまるでヒールのようにこつこつと音をさせた。


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