一章 -クロベル-


 客人の帰るのを察してか、手を両方ともエプロンの前で重ねて、畏まった姿勢を保っている。ドアを潜って飛行艇を止めた庭へ出てから、テオはふと気になっていたことを思い切ってたずねた。
「なあ、あのさ」
「はい」
「あんたって、いくつ?」
 女には歳を訊くなと、いつからともなくどこかでそんな常識を身につけていたような気もするが。たずねたのは、彼女が口にするのを躊躇うような歳ではないことなら最初から見て取れたからである。案の定、躊躇いがちではあったが口を開いた。
「十九です」
「あれ、同じじゃないか」
 一つ、二つくらい下かと思っていたが、存外に同い年であることが分かった。セネリのほうもテオの返事に、わずかながら驚いた顔をする。家の中にいるときから感じていたことだが、どうやらあまり感情の起伏を表に出すのが得意なタイプではないらしい。しかしそれなら、年下でなかったことはまだ好都合だ。
「呼び捨てでいいよ。それと、敬語もいらない」
「え?」
「それじゃよろしく、セネリ」
「!」
 管理所の仲間との生活が長いせいか、あまり同年代の相手から堅苦しく接されることに慣れていない。飛行艇に乗り込んで片手を挙げ、手本を示すように呼べば、彼女は紫苑の眸を丸く開いた。
「ルーダ!」
 何か言葉が返るのを待たずに、エンジンを起動して庭を飛び立つ。飛行艇は大きな音を立てて、草を巻き上げながら空へ舞い上がった。地上で耳を覆った少女が、慌てて上を向いたのが見える。
 テオはそのまま町の隅の家を後にすると、速度を上げて運河の先に見える管理所を目指し飛んだ。今日は風が少ない。仄かにレモンの酸味が、まだ舌に残っていた。


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