知っていた、世界が花開くとき、僕の中の君が消えること。
閉ざされた箱の中で生きていた。無の中に落とされたインクはひどく鮮やかに見えて、僕はすぐに惹かれたけれど初めから気づいていた。この色が特別に見えたのは、いやむしろ、これに色がついて見えたのは、僕の世界があまりに閉鎖的であったからに過ぎないのだと。分かっていた、外にはたくさんの色が犇めいていて溶け合っていて輝いていて、そんな景色の前ではこんな一点のインクなど、特別どころか目に留めることさえ本当は難しい。みんな、無色の上に落ちるという前提での鮮やかな色なのだ。同色の上ではどれだって透明に等しい。
「じゃあ、なんで。なんで私を見つけるの」
「なんでかな。やっぱりないと物足りないからかもしれない」
「今の貴方にはもう、物珍しくもなんともないのに?」
「そうだよ。外の世界を知った僕にはもはや透明みたいに君はありふれていて、珍しさはなくて、鮮やかでもなくて、目を凝らさないと見つからなくて、そうして」
「透明みたいに、傍にないと息が苦しくて、もう何にも見たくないなって思ったときでも、君のことは見られる」
知っていた、世界が花開くとき、僕の中の君が消えること。
鮮やかさはなくなった。代わりに今の僕にとって透明は君だけになった。
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