『あの人は、秋の吹雪』
 そう教えられた隣人を探して、アパートの裏手に建つ神社を覗いた。神社といっても本当に小さなもので、祠と鳥居、それだけに近い。昔は池の飛び石だったという石の間にも今は砂利が敷き詰められ、灰色や黒の卵形の石の隙間を、苔が歩き回っていた。
 春の蕾と夏の迅雷、冬の静寂にはもう会ったので、残るは秋の吹雪に挨拶をするだけだ。103号室に入った僕は、彼と夏とは特に付き合うこととなるだろう。本当は梅雨の翠の代わりに入ったから102号室が妥当なのだけれど、何せ春はぽやぽやしているので夏が面倒を見ているらしく、離せない。
『秋ならこの時間はお詣りよ、会いに行ってきちゃえば』
 春にそう言われて来てはみたが、誰の姿も見当たらなかった。入れ違ったか、と踵を返そうとして、はたと目をみはる。
 鳥居の横の紅葉が、夏だというのに燃えるような色を灯していた。赤に黄金に、華々しく染まり、風にさざめいて舞い上がる。
 その中から、ふわりと。緋色の袖を翻して、番傘を肩にかけ、漆のような黒の眸をゆるませた人が、飛び石の上に下駄を鳴らして降り立った。
「やあ、梅雨の。君が、今日から来るって言っていた新入りかな?」
 かろん、と。足音に合わせて鈴が鳴る。
「よろしく――僕が秋の吹雪。四季神荘へようこそ」


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