※中編『七夢渡り』より
心のどこかに死を想定して生きていた。抱え続ける想いの果てには、それも一つの結論として有りうるのではないかと。トコロワへ渡ったとき、満ちる死の匂いがあまり恐ろしくなかったのは、生まれたときからそれを纏う人がいて、彼女の手ならば死人のそれでも、確かに触れてみたかったからだ。
それを、恋や愛と呼ぶのかは、別として。
無垢なままに根を張った遠い想いは、少なくともこの身が彼女と同じものになることを恐れてはいなかった。けれど。
「ハイエル?」
呼びかけられて、閉じていた目を開ける。まだらに落ちる木漏れ日に照らされて、明るい色の眸がまじまじと見下ろしていた。
「どうしました、カナリー」
「偶然ですわ。通りかかったら、木陰に貴方が見えたので……何をしていたのです?」
「そうですねえ」
腕を引くと、彼女はすとんと膝を跨いだ。幼い頃から見慣れた、この国の女王。今の私の、妻。
首を傾げる彼女を抱き寄せ、きつく目を閉じる。温かな体と、花の匂い。
心を紐解けば今もまだこぼれる人の面影に、変わることのない想いを誓い、固い鍵をかけて箱を胸にしまう。トコロワへは二度と行かない。本当の死が私を迎えに来るまで。
「夢を見ていました。……少し、懐かしい」
――ライラ。貴方への永劫の忠誠と共に、私はここで生きてゆく。
寂しさを捨てる最終手段を、永久に捨てよう。総てのために。
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