※短編『ブラウンシュガー・テイル』より、キヲトとリコ
※同棲ネタ
緩やかに触れるか触れないかの距離にあった肩が、いつのまにかすっかり凭れていることに気づいたのは、頬を髪がくすぐったからだった。焦げ茶色の髪が肩を流れ落ちて、同じ手元を覗きこむように頭が傾いている。
「リコ?」
問いかける声を潜めたのは、大方、眠ってしまったのだと何となく分かったからだ。答えはなく、すうすうと規則的な寝息が聞こえてくる。膝の上に広がったままの本を取り上げて、人知れず笑った。
歴史書とはまた、無謀なものを選ぶ。こちらの世界の文字もようやく一通り覚えたばかりで手に取るには、どう考えても早急な本だろうに。
「何を急いておるのだか」
栞は挟まず、閉じたその本を少し遠くのテーブルに置く。力量に合わない読書は苦痛だ。今の彼女には、まだ重い荷物となるだろう。
同じ話がしたいのなら、これくらいのことは聞いてくれればいい。それでなくても、ただ。
「……、ふ」
自由に、傍で笑っていてくれれば充分だ、と。片手を伸ばしてブランケットを引き寄せながら、何の気構えもなく自分の中に浮かんだ言葉がらしくなさすぎて、先に笑った。
ブランケットをかけてやると、ずるずると肩を滑って膝に頭を預けてくる。起きたらどうせ驚いて、さぞかし慌てるのだろう彼女に、今度なにか読みやすい本を探しておいてやろう。結末を共に語るためだけの、やさしい本を。
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