新月の夜が好きだ。貴方の声が聞こえるから。新月の夜が好きだ。貴方の居場所が思い描けるから。新月の夜が好きだ。月のない川岸を歩く。一人二人。二人一人。戯れに鳴いた木菟の声。
「それにしても、暗いな」
「うん」
「こんな道が、好きだっけ」
「好きよ?」
一ツ二ツ。二ツ一ツ。街灯の数は零本目。
「誰もいないよ」
「知ってる」
遠くの曲がり角に一本。私には必要ない。
ぽつりぽつり、話しながら両手を広げて歩く夜。新月は影を照らさない。足元には何も映し出されない。
「どこ、行くの」
「さあ、別に。貴方が知らないとしたら、私にも分からないから」
新月の夜が好きだ。貴方の声が聞こえるから。新月の夜が好きだ。月のない川岸を。
「風邪引くよ」
「いいの」
そこにいてどこにも見えない貴方と、歩けるから。その姿が見えないことを、灯りのないせいにできるから。
「そしたらまた、看病して」
ざぶんと、泥臭い水の跳ねる音がした。
まっくら闇と踊る
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