ねえ、あの月をシャボン玉に変えてしまうのと、そのシャボン玉をあの月ほどに膨らますの。どっちのほうが、難易度が高い?
 後ろから聞こえてきたそんな声に振り向けば、どこから登ってきたのだろうか。幼い女の子が立っていた。とんとん、と隣を叩くと、爪先の丸い靴を鳴らして歩いてくる。座るように促して手を貸せば、こちらを見つめたまま両足を伸ばして座り込んだ。
「屋根の上が、怖くないんだね」
「うん」
「高いところは好き?」
「大好き」
 間髪入れずに答えた少女に、苦笑する。
 怖いものを知らないと言うべきか、愛らしいと言うべきか。落ちることを考えない少女は、屋根から足を投げ出して笑う。楽しいこと、冒険が大好きな顔だ。それならば。
「シャボン玉を、月より大きくするのはとても難しいよ」
「ふうん」
「だけどね、月をシャボン玉にするのは簡単だ」
 きみに、摩訶不思議をあげよう。
 ふわり、真昼の空に浮かぶ月に被せてシャボン玉を膨らました。魔法の使い方は知らないが、今だけは。魔法使いのふりを、してもいいだろう。
「ほら―――」
 わあ、と歓声が聞こえた気がして振り返る。
 そこに少女はいなかった。代わりに白い鳩が一羽、晴れた空を旋回しながら鳴いていた。





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